労災後に退職勧奨されても応じてはならない理由とは?弁護士に相談した方がよい理由等も解説

労災(労働災害)でけがや病気を負い、休業している間や職場復帰後、あるいは労災申請の手続き中に、会社の上司から退職を勧められたという話を耳にすることがあります。

退職勧奨は、労働者に対して退職を促すものであり、従業員の同意がなければ成立しません。つまり、強制力はありません。したがって、労働者はこれを拒否することができます。

このような退職勧奨に応じる必要がない理由は、退職勧奨の性質と、労働基準法第19条(業務上の負傷・疾病による解雇制限)に基づく労働者保護の規定にあります。

そこで今回は、労災に遭った労働者が退職勧奨に応じるべきでない理由と、適切な対処法について、わかりやすく解説していきます。

退職勧奨とは

退職勧奨とは、会社が従業員に対して退職を促す行為を指します。主な目的は人員整理や業務の効率化などであり、場合によっては、労災によって業務遂行が困難となった従業員に対して行われることもあります。

ただし、退職勧奨による退職は、労働者の意思による合意があってはじめて成立します。従業員が拒否しているにもかかわらず、会社が一方的に退職を強制することは違法であり、認められていません。

したがって、退職勧奨を受けた場合でも、労働者はこれを拒否することができます。「退職したくない」という意思がある場合、退職に応じる必要はありません。

自己都合退職と会社都合退職の違い

退職勧奨による退職は、原則として「会社都合退職」に該当します。しかし、会社によっては、離職票に「自己都合退職」と記載され、不利な扱いを受けるケースもあります。

自己都合退職と会社都合退職では、失業給付金の取り扱いや経歴の記載に大きな違いが生じます。具体的に見ていきましょう。

項目自己都合退職会社都合退職
概要自分の意思による退職会社の都合による退職
失業給付金待機期間:7日間+給付制限
期間:2ヶ月
給付日数:90~150日(被保険者期間により異なる)
待機期間:7日間のみ
給付日数:90~330日(年齢・被保険者期間により異なる)
退職金会社の就業規則により、減額や不支給となる場合がある会社の就業規則により、満額支給されることが多い
経歴の記載一身上の都合により退職会社都合により退職

このように、自己都合退職は会社都合退職に比べ、失業給付金や退職金の取り扱いにおいて、不利になることがあります。転職時には、「一身上の都合」という退職理由について、応募先の会社から詳細を尋ねられることもあるかもしれません。

退職勧奨に応じる場合は、離職票の退職理由が「会社都合」となっているかを必ず確認しましょう。万が一、「自己都合」と記載されていた場合は、ハローワークに異議申し立てを行うことで、訂正される可能性があります。

退職勧奨に応じてはならない理由

既に述べたとおり、労災中(療養中)・労災後(療養後)にかかわらず、退職の意思がない状態で退職勧奨に応じる必要はありません。

それは、法律によって労働者の権利が保護されているためです。

労災を理由にした解雇は原則不可

労働基準法第19条には、「労災による休業期間、およびその後30日間については、使用者は労働者を解雇してはならない(打切補償の実施や事業の継続不可の場合を除く)」旨が示されています。

これは、解雇制限と呼ばれるもので、労災によって思うように働けなくなった労働者を保護する条文です。

また、労働安全衛生法第97条には、「労災の申告を理由に、使用者は労働者に対し解雇や不利益な扱いをしてはならない」旨も定められています。

これらの法律からは、労災を理由に会社が労働者を解雇することは基本的にできないことがわかります。

退職勧奨に強制力はない

労災を理由にした解雇が違法になる可能性があるからと、解雇ではなく退職勧奨を行う会社もあるでしょう。労災に遭った労働者に退職勧奨を行うこと自体は、明確に違法であるとはいえません。

ただし、前述のとおり退職勧奨には強制力がなく、退職には労働者自身の合意が必要です。労働者が拒否しているにもかかわらず会社が強制的に退職を勧める行為は、違法となる可能性が高いです。

このように、労災に遭った労働者に対し、会社は強制的に退職させることはできません。従って、「退職したくない」という意思がある労働者が、退職勧奨に応じる必要はないのです。

退職せずに損害賠償請求を行うのは可能?

労災が発生した原因に、安全配慮義務違反や使用者責任などの会社の責任が認められる場合には、被災労働者は会社に対し、損害賠償請求を行うことが可能です。

この損害賠償請求は、退職せず在職のままで手続きを進めることが可能です。労災申請と同様に、損害賠償請求を行ったことを理由に、使用者が労働者を解雇することは法的に認められていません。

損害賠償請求を検討する場合には、労働問題に精通した弁護士に相談し、適切なサポートを受けることが重要です。

【関連記事】労災で慰謝料請求はできるか?(不法行為責任に基づく損害賠償請求について)

違法な退職勧奨を受けた際に弁護士に相談した方がよい理由

労災による損害賠償を会社に請求したい場合や、退職を無理に迫られるといった違法な退職勧奨を受けた場合は、労働問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士に依頼することで、被災労働者は以下のような多くのメリットを得られます。

  • 法律に基づいた適切なアドバイスを受けられる
  • 手続きのサポートを受けられる
  • 会社との代理交渉を依頼できる
  • 労働審判や訴訟の手続きを任せられる

専門的な観点から違法性を正確に判断し、取るべき対応をアドバイスしてもらえること、複雑な法的手続きや会社との交渉を一任できることは、弁護士に相談・依頼する大きな理由です。交渉で合意できず、労働審判や訴訟へ進んだ場合でも、弁護士がついていれば、手続きは比較的スムーズに進められます。

また、法律の専門家である弁護士が味方につくことで、労働者の不安や負担が軽減される点も、重要なメリットです。

まとめ

労災による損害賠償を考えている方や、療養中・療養後に違法な退職勧奨・解雇を受けた場合は、労働問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士が会社の対応の違法性を指摘し、適切な対応を求めることで、働く人の権利が守られる可能性があります。

労災無料相談センターでは、労災をはじめとした労働問題に関するご相談・ご依頼を受け付けています。実績豊富な弁護士が、依頼者に寄り添い、手厚くサポートを行います。

労働に関するお悩みを抱えている方は、まずはお気軽にご相談ください。