第三者行為による労災。社員同士の事故、相手が不明の場合

仕事を起因とした労働者の怪我や病気は、労災(労働災害)と呼ばれます。労災による療養や休職が、基本的に労災保険(労働者災害補償保険)の補償対象になることは、皆さんご存知でしょう。
では、同じ労災であっても、ある第三者によって引き起こされた労災の場合はどうでしょう。通常の労災と、補償や手続きの違いはあるのでしょうか。
そこで今回は、「第三者行為における労災」について詳しくご説明しましょう。

第三者行為災害って?

労災発生の原因に相手がいる場合、「第三者行為災害」という言葉がよく使われます。まずは、「第三者行為災害」という言葉の意味についてご説明しましょう。

第三者行為災害とは
労災の中でも、労災の原因となった事故が、第三者によって引き起こされたものであった場合を第三者行為災害と呼ぶ。ただし、第三者とは、労災保険の対象となる政府や事業主、労災保険受給権者以外の者を指す。
この場合、労災保険による給付を受ける被災労働者や遺族は、当該第三者に対する損害賠償請求権を持つことになる。

つまり、原因が第三者の過失にある場合の労災は、労災の中でも「第三者行為災害」と呼ばれるのですね。「第三者行為災害」では、被災労働者は、事故の原因となった第三者に対して損害賠償請求を行うことが可能です。しかし、被災労働者が損害額よりも多くの支払いを受けることのないよう、損害賠償額と労災保険による給付額の間では、政府による支払い調整(求償)が行われています。
「第三者行為災害」となるのは、以下のような場合です。

  • 交通事故の場合(自損事故を除く)
  • 他人から暴行を受けた場合
  • 他人が飼育する動物によって負傷した場合

具体的には、「飲食店スタッフが、店内で騒いだ客を止めに入って暴行を受けた」「業務により客宅訪問中に客のペットに噛みつかれた」などといった例が挙げられます。
通常の労災か、「第三者行為災害」かによって手続きや補償の流れには違いがあるため、取り扱いには充分注意するようにしましょう。

社員同士の事故も労災になる?

ここからは、「社員同士の事故」の場合について見ていきましょう。社員同士の事故は通常の労災扱いになるのでしょうか?
結論から言うと、社員同士の業務に付随した事故の場合、その事故は「第三者行為災害」となり、過失のあった第三者にあたる社員は、被災労働者にあたる社員に対して、賠償責任を負うことになります。過失のあった社員は、被災社員にとって第三者、つまり先ほど述べた「労災保険の対象となる政府や事業主、労災保険受給権者以外の者」にあたるためです。
しかし、この場合、第三者による賠償よりも、労災保険による給付手続きが先に取られることがあります。その場合、被災労働者が労災保険と第三者から重複して補てんを受けることを防ぐため、政府は被災労働者に代わって、給付した労災保険の額を限度に、損害賠償請求権を取得し、損害賠償請求を行うことがあります。そしてこの支払い調整方法は、「求償」と呼ばれています。
しかし、通達によると、下記のような場合の事故については、政府は求償権を行使しないとされています。

  • 同一事業に雇用される同僚労働者相互の加害行為による災害
  • 同一事業の事業主を異にする労働者相互の加害行為による災害
  • 同一作業場で作業を行なう使用者を異にする労働者相互の加害行為による災害

つまり、社員同士の事故は「同一事業に雇用される同僚労働者相互の加害行為による災害」にあたるため、「第三者行為災害」であり、第三者による賠償責任があるものの、政府による「求償」は行われないのです。

相手が不明の場合

「第三者行為災害」の中には、事故の原因となった第三者がいるにもかかわらず、その第三者が誰なのかが不明であることもあります。例えば、事故にあったもののすぐにその場を離れてしまったり、暴行を行った相手が逃げてしまったりした場合ですね。
しかし、そんな場合であっても、「第三者行為災害」として労災保険の給付手続きを行うことは可能です。相手が不明の場合は、「相手方不明」として、手続きを進めていくことになります。
「第三者行為災害」により、労災給付を被災労働者が受ければ、第三者に対する損害賠償請求権は政府に移ります(求償)。そのため、不明になった第三者に対しては政府が賠償請求を行なっていくこととなり、被災労働者は相手不明の複雑な賠償手続きを自身で行う必要はなくなります。

自賠責保険から給付が出る場合

交通事故による「第三者行為災害」の場合、労災保険からだけでなく、自賠責保険からも給付が出ます。
しかしこの場合、労災保険による給付金と自賠責保険による給付金を、同一の事由に対し重複して受け取れるわけではありません。また、労災保険と自賠責保険の給付を同時に受けられるわけでもありません。
被害を補償する保険が2種あっても、それらから支払われる総額の上限は「損害額」と決まっているのです。労災保険と第三者による賠償金の関係と同じですね。
労災保険・自賠責保険の給付金受け取りは、以下のような流れで行います。

労災保険からの給付金を先に受け取った場合

「労災保険からの給付金」を受け取り、その後、「労災保険からの給付金」と「自賠責から給付されるはずの給付金」に差額があれば、差額分を受け取れる。自賠責保険からの給付金を先に受け取った場合「自賠責保険からの給付金」を受け取り、その後、「自賠責保険からの給付金」と「労災保険から給付されるはずの給付金」に差額があれば、差額分を受け取れる。ただし、「休業特別支給金」は、別に受け取り可能。

一般的には、自賠責保険の給付が先になることが多いようです。

相手と示談している場合

先述の通り、第三者による労災事故を被った場合には、第三者は被災労働者やその遺族に対し、賠償責任を負うことになります。
しかし、場合によっては、当事者同士の合意の上、示談が成立することもあるでしょう。示談が成立した場合には、被災労働者は示談金以外の損害賠償権を放棄することとなります。
示談成立後には、政府による労災保険の給付は一切行われないので、示談を検討する際にはその点にも注意しておきましょう。
また、示談が成立した場合には、労働局もしくは労働基準監督署に速やかに報告を行わなければなりません。加えて、示談書の写しも提出するようにしましょう。

第三者行為災害時に提出するべき書類

「第三者行為災害」を被り、被災労働者が労災保険による給付を受ける場合には、所轄の労働基準監督署に書類を提出しなくてはなりません。提出書類は以下のようになります。

交通事故の場合

書類名必要部数 
第三者行為災害届2部 
交通事故証明書もしくは交通事故発生届2部 
念書(同意書)3部 
示談書謄本1部示談した場合
自賠責保険等の損害賠償金等支払い証明書もしくは保険金支払通知書1部仮渡金もしくは賠償金を受けている場合
戸籍謄本1部死亡した場合
死体検案書もしくは死亡診断書1部死亡した場合

交通事故以外の場合

書類名必要部数 
第三者行為災害届2部 
念書(同意書)3部 
示談書謄本1部示談した場合
戸籍謄本1部死亡した場合
死体検案書もしくは死亡診断書1部死亡した場合

ただし、示談書謄本、自賠責保険等の損害賠償金等支払い証明書もしくは保険金支払通知書、戸籍謄本、死体検案書もしくは死亡診断書については、写しでも可です。
また、事故の原因となった第三者は、「第三者行為災害報告書」を提出する必要があります。この報告書は、災害の発生や損害賠償金の支払いについて状況確認を行うために必要になるので、必ず提出するようにしましょう。

まとめ

「第三者行為災害」についてご紹介しました。
このように、通常の労災と相手がいる「第三者行為災害」では、その後の手続きや補償の流れに違いがあります。特に「第三者行為災害」では賠償や示談のために複雑な手続きが強いられ、被災労働者自身が不安な思いをすることも多いでしょう。中には、自身に不利な条件で示談にさせられてしまうこともあり得るのです。

そのような不安や問題を払拭するために、もし「第三者行為災害」にあったのなら、まずは弁護士に相談するようにしましょう。弁護士に相談すれば、法律のプロの目から最善の対応をアドバイスしてもらえるとともに、専門的な手続きも任せることができます。

「労災」や「賠償」などと聞くと、人はどうしても不安を抱えてしまうものです。そんな不安を取り除き怪我の療養に専念するためにも、いざという時には、弁護士を頼ると言う選択肢を持っておくといいですね。