過労死ラインとは?何時間なのか、どのくらい違法なのか

「過労死ライン」とは、健康障害リスクが高まるとする時間外労働時間を指す言葉で、労働災害を認定する際労働と過労死・過労自殺との因果関係判定に用いられます。
例えば、長時間労働によりうつ病を患った労働者が労災申請をする際、労働者の直近1か月間の残業時間が100時間を超えているから、この労働者の勤務状態は「過労死ラインを超えている」ということができます。したがって、この労働者のうつ病は長時間労働により発症したものとされて労災認定がされることになります。

過労死ラインの判断基準は?

以下の3通りあります。

(1)発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合

(1日4時間の時間外労働をして、1日12時間勤務が続く状態)

(2)発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外労働が認められる場合

(1日5時間の時間外労働をして、1日13時間勤務が続く状態)

(3)発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間の時間外労働が認められる場合

(1日2時間15分の時間外労働をして、1日10時間15分勤務が続く状態)

1か月あたり45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できます。

過労死の原因は大きく分けて2つあり、①心臓、脳血管疾患による死亡と②精神疾患による自殺であることは、以前お話ししました。長時間労働によって、心臓や脳の血管が病変し、疾病を引き起こすことが認められますし(①)、長時間労働により気が滅入ったり思考力が低下し、精神疾患を患うことも認められています(②)。

 

日本の過労死の現状は?

就業者の脳血管疾患、心疾患(高血圧性を除く。)、大動脈瘤及び解離(以下、「脳血管疾患、心疾患等」という。)による死亡数は、5年ごとに実施される人口動態職業 ・ 産業別統計によれば、減少傾向で推移しており、平成 27 年度は 27,019 人となっています。

Death line of overwork_1

60 歳未満の就業者の脳血管疾患、心疾患等による死亡数は産業別の死亡数をみると、「製造業」、「建設業」、「卸売業,小売業」の順に多くなっています。
職種別の死亡数をみると、「専門的・技術的職業従事者」、「サービス職業従事者」、「生産工程従事者」の順に多くなっています。

Death line of overwork_2

過労死防止のための対策

国としても過労死が多い現状を重く受け止め、平成30年7月24日の閣議決定において、過労死労防止対策の数値目標をこれまでよりさらに具体的に定め、様々な啓発活動を進めています。
具体的な、過労死防止対策の数値目標は以下のとおりです。

(1)週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下とする。
※特に長労働時間が懸念される週労働時間40時間以上の雇用者の労働時間の実情を踏まえつつ、この目標の達成に向けた取り組みを推進する。
(2)勤務期間インターバル制度について、
・勤務期間インターバル制度を知らなかった企業割合を20%未満にする
・勤務期間インターバル制度を導入している企業割合を10%以上にする
(3)年次有給休暇の取得率を70%以上にする
※特に、年次有給休暇の取得日数が0日の者の解消に向けた取り組みを推進する
(4)メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上にする
(5)仕事上の不安、悩み又はストレスについて、相談先がある労働者の割合を90%以上にする
(6)ストレスチェック結果を集団分析し、その結果を活用した事業場の割合を60%以上にする

なお、「勤務期間インターバル」とは、勤務終了後、次の始業時間まで一定時間以上の「休息時間」を設けることで、労働者の生活時間や睡眠時間を確保するものです。2018年6月29日に成立した「働き方改革関連法」に基づき「労働時間等設定改善法」が改正され、前日の終業時刻から翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保することが事業主の努力義務として規定されました(2019年4月1日施行)。

労働基準監督署の体制整備

過労死防止のために、労働基準監督署は労働者等からの報告を受けた際、事業場を適切に指導し、場合によっては勧告、是正命令、行政指導などの行政手段をとる必要があります。この意味で労働基準監督署には非常に重要な責務があります。
そこで、法令に関する知識や労務管理体制が必ずしも十分でないと考えられる中小規模の事業場に対しては、きめ細やかな相談・支援を行うことが必要であることから、2018年4月1日から、全ての労働基準監督署において、労働時間に関する法制度の周知及び指導を集中的に行うための「労働時間改善指導・援助チーム」を編成し、「労働時間相談・支援コーナー」が設置されました。

 

過労死が認められた最近の事例

●富山県公立中学校教諭の事例(2018.4.9)

富山県内の公立中学校に勤務していた40代の男性教諭は、平成28年7月、自宅でくも膜下出血を発症し、2週間後に死亡した事例で、地方公務員災害補償金富山県支部により、過労死と認定されました。 時間外勤務は発症直前1カ月で約118時間、2カ月前は128時間にも及び、時間外勤務のうち部活指導は1カ月前で約79時間、2カ月前は約100時間であり、時間外勤務のほとんどが部活動勤務であったことが判明しました。
公立学校教員に時間外手当の支給を認めず、代わりに基本給に一律4%を上乗せするとした教職員給与特別措置法(給特法)が長時間勤務の背景にあると指摘されています。

●テレビ朝日プロデューサーの事例(2015.7)

テレビ朝日のドラマのプロデューサーだった男性社員(当時54)が13年7月に出張先のホテルで心臓疾患で倒れ、2015年2月に心不全で死亡した事例で、長時間労働による過労が原因として、三田労働基準監督署により労災認定されました。
男性は労働時間の規制が緩い「管理監督者」でした。労基署は、倒れる直前の3カ月間の時間外労働が70~130時間に及び、「過労死ライン」とされる月80時間を超えていたことを確認し、14年10月に労災認定しました。男性はその後も療養を続けていたが15年2月に心不全で死亡したところ、残業と死亡との因果関係も認め、同年7月に過労死と認定されました。

近年過労死防止に向けた取り組みは、国を挙げて進められている課題ですが、特に中小企業や小規模の企業にとっては、法的整備や周知自体がされておらず、過労死を根絶するのは非常に難しい問題と言えるでしょう。したがって、自身が過労死しないためにも、本来あるべき企業の体制や、過労死になる前に取るべき措置を自身で知っておく必要があります。

また、過労死になるような事案では、長時間労働が常態化していたり、労働時間や環境について会社側が配慮すべき義務を怠っていることが多いため、残業代請求や損害賠償請求をすることも考えられます。激務や長時間労働のさなかで、病院での受診、労働基準監督署への相談、会社に対する損害賠償請求など法的手続きの検討は、その手間や労力は膨大なものになります。
労災をはじめとする労働問題を数多く取り扱ってきた弁護士法人法律事務所テオリアでは、弁護士が一手に煩雑な手続きを行うだけでなく、証拠収集のアドバイス、証拠の整理や場合によっては調査も行い、取りうる法的措置についても金額とともに詳しくご説明します。

激務や長時間労働に苦しんでいる方は、取り返しがつかなくなる前に是非一度、弁護士法人法律事務所テオリアにご相談ください。