社員旅行中の怪我と労災

皆さんの会社では社員旅行がありますか?
現在社員旅行を行う会社は、5割程度にとどまっており、約9割の会社が社員旅行を行っていたピーク時に対し随分少なくなってきています。
しかし、最近は働き方改革が求められ、長時間労働が規制される中、社員旅行を社員同士のコミュニケーションの場としたり、社員の士気を高める機会として利用され、再度社員旅行の持つ意義が見直されてきています。

では、例えば、社員同士の親睦を目的とする温泉旅行中、足をくじいたような場合、労災認定がされるでしょうか。

今回は、社員旅行中に、社員が怪我をした場合、労災として認定されるかを考えてみたいと思います。
労災は、事業に関し労働者として働いたことが原因となり発生した災害に対して保険が給付されるものなので、労働者が労働関係の下労働に従事している際に起きた災害でなければならず、これを業務遂行性と言います。
今回の場合は、社員旅行が「労働に従事している」と言えるか、すなわち業務遂行性の有無が焦点となります。

社員旅行などの会社行事に業務遂行性があるかを判断した、以下2つの判例が参考に

(1)福井労基署長事件

従業員が会社(使用者)の実施した忘年会に出席し、その終了後に同会場付近で交通事故にあって負傷したケースで、業務上の負傷に当るか否かが争われた事例

労働者が事業主(使用者)主催の懇親会等の社外行事に参加することは、通常労働契約の内容ではないため、①社外行事を行うことが事業運営上緊要なものと客観的に認められ、かつ②労働者に対しこれへの参加が強制されているときに限り、労働者の社外行事への参加が業務行為になるとしています。

前述の温泉旅行の例に当てはめると、社員旅行は親睦を目的としているため、社員旅行自体が事実運営上緊要とは言えず(①)、一般社員にとっては参加は強制ではないでしょうから(②)、労災が認められることはほぼないと言えるでしょう。

(2)多治見労基署長事件

社員旅行中の航空機事故により社員が死亡し、労災認定されるかが争われた事例

この事件では、今回の社員旅行が研修には当たらないことを前提とし、①旅行日の出勤・欠勤及び賃金の取扱い、②旅行への参加・不参加の自由を考慮して判断しています。
社員旅行が業務の一環と言える研修旅行である場合には業務遂行性が認められます。他方、業務の一環ではなく社員同士の親睦を深めたり観光が目的である場合には、基本的には業務遂行性が認められません。

しかし、この場合でも、旅行に参加しなかったことが欠勤として扱われたり、参加が有給扱いとされていて(1)、参加が強制されているようなケース(2)では、業務遂行性があると言えます。
多くの会社の社員旅行は、一般社員にとっては、参加か不参加が自由意思に任されているケースがほとんどでしょうから、社員旅行中の怪我が労災として認定されにくいでしょう。ただ、旅行の世話役や幹事として任命されていて、実質的に参加が強制されている総務担当の社員であったような場合は、業務遂行性があると判断される可能性があります。

社員旅行に業務遂行性は、認められないケースがほとんどですが、判断が微妙で困難な場合もあります。もし怪我をされてお悩みの場合は、一人で悩まず、弁護士にご相談ください。