日本では、労災により毎年12万人以上の労働者が死傷しています。そして、その業種は建設業や製造業といった危険作業を要するものだけではありません。飲食業や小売業など、幅広い業種で労災は起こっているのです。
このように、身近に起こり得る労災ですが、万が一労災にあった場合、補償(労災保険)は誰にでも受けられるのでしょうか。また、非正規であるパートは対象とされるのでしょうか。
そこで今回は、労災保険の対象について、パートの立場にフューチャーし、詳しく説明していきます。
労災保険とは?
まずは労災について、また労災保険について、知っておきましょう。
- 労災(労働災害)とは
- 労働者が、勤務中もしくは通勤中に起こった事故によるケガや業務を起因とした病気にあうこと。
勤務中の労災を「業務災害」、通勤中の労災を「通勤災害」と呼ぶ。 - 労災保険とは
- 労働者災害補償保険のこと。
労災にあった労働者または労働者の遺族に対し、補償を行う。
例:療養補償給付、休業補償給付、遺族補償給付etc.
労災保険は、従業員を雇用しているすべての事業主に、加入が義務付けられている保険です。例え、雇っている従業員が1人だけであっても、事業主は労災保険に加入しなくてはならないのです。
また、労災保険の保険料は全額事業主が納めることになっており、従業員の負担はありません。
万が一、労災が起きた会社が労災保険に入っていなかった場合は、罰金や保険料の値上がりなどといったペナルティを受けることになる可能性があります。
いざという時に困ることがないように、事業主の方は労災保険加入手続きを、従業員の方は会社が労災保険に入っているかどうかの確認を、徹底しておきたいですね。
パートに労災保険は適用されるのか
ご紹介したように、労災保険は労働者のケガや病気に備える保険制度です。
では、この労災保険の対象となるかどうかは、雇用形態によって変わるのでしょうか。パートであっても、労災保険は適用されるのでしょうか。
労働局の資料によると、労災保険の対象者は以下のように分類されます。
労災保険対象
- 一般労働者(パートタイマー含む)
- アルバイト
- 日雇労働者
- 派遣労働者(派遣元での適用)
- 海外出張者
- 船員保険被保険者
労災保険非対象
- 代表権・業務執行権を有する役員
- 事業主と同居の親族
- 海外派遣者
- 常勤の公務員
この分類を見ると、正社員はもちろん、パートやアルバイト、日雇い労働者など、ほとんどの雇用形態の労働者が労災保険の対象になることがわかります。つまり、「パートにも労災保険は適用される」のです。
しかし一方で、代表権を持つ役員や事業主と同居している親族、海外の事業場に所属する海外派遣者などは、労災の対象にはなりません。
また、常勤の公務員は国家公務員災害補償制度という専用の補償が設けられています。
こんな時、労災保険は下りるのか?
次に、労災保険の適用について、ケースごとに見ていきましょう。
仕事中に怪我をした場合
先述の通り、仕事中の怪我は「業務災害」にあたり、もちろん労災保険が適用されます。
ただし、対象となるのは仕事中に仕事が原因で起こった怪我のみです。仕事をしていなかった場合や私的な行為が原因である場合、故意の場合、自然災害による場合などは、業務災害と認められません。
通勤中に怪我をした場合
通勤中の怪我は、「通勤災害」と呼ばれ、労災保険が適用されます。
ただし、対象となるのは自宅と職場を繋ぐ合理的なルート上で起こった怪我であり、業務に関係なくルートを逸れた場合には保険対象になりません。
しかし、日用品の購入や通院など生活に必須となるような行為によってルートを逸れた場合、合理的ルートに戻ってからは再び「通勤」と判断されます。
副業・兼業の場合
仕事を掛け持ちしている場合、各職場での「業務災害」には各職場からの労災保険が使用されます。
また、AとBという職場で兼業していた場合、自宅〜Aまでのルート、またはB〜自宅までのルートで起こった怪我は「通勤災害」として労災保険の対象になります。さらに、近年ではA〜Bまでのルートで起こった事故についても、「通勤災害」と認められるようになりました。
つまり、副業や兼業の場合であっても、「業務災害」はもちろん、各職場及び自宅への移動における「通勤災害」も労災保険対象として認められているのです。
パートの方に多い怪我、ぎっくり腰、腱鞘炎は労災になるのか?
パートの場合、仕事によって被りやすいのが、ぎっくり腰や腱鞘炎です。重いものを持ったり、レジ打ちを連続して行ったりしていると、腰や手首を痛めやすいものです。
では、ぎっくり腰や腱鞘炎は、労災保険の対象となるのでしょうか。
実は、ぎっくり腰や腱鞘炎の労災認定には、厳しい条件が定められています。
- ぎっくり腰の労災認定
- ぎっくり腰は日常的な動作で起こる症状であり、仕事中に発症したとしても、基本的に労災認定はされない。しかし、業務による腰への強い作用が認められる場合には、「業務災害」とされる可能性もある。
- 腱鞘炎の労災認定
- 腱鞘炎は、以下の3条件をすべて満たすことで労災認定を受けられる。
- 6ヶ月程度以上上肢に負担のかかる業務に従事した後に発症したこと
- 発症直前3ヶ月以内に過重な業務を行なったこと
- 過重な業務と症状の発症の関連性が、医学的に妥当であること
その他、腰痛や関節炎などについても、条件を満たせば労災と認められ、労災保険の適用を受けられる可能性があります。ただし、認定はケースバイケースなので、症状によって一概には言えないというのが現状です。
労災は労災指定病院に
労災によりケガや病気が生じた場合には、労災指定病院にかかるのが基本です。
労災指定病院とそうでない病院とは、労災時の診療において以下のような違いが生じます。
- 労災指定病院の場合
- 労災保険が直接病院に診療費を支払うため、会計時に労働者が費用負担をする必要がない。ただし、病院への請求書提出が必要。
- 労災指定病院でない病院の場合
- 労災保険が直接病院に診療費を支払うことができないため、会計時には労働者が診療費を一旦立て替えなければならない。後日、労働基準監督署に請求すれば、立て替え分の診療費が労働者へと振り込まれる。
労災による診療に健康保険は適用されないため、診療費は10割負担になります。そのため、労災指定病院でない病院で診療費を受け、診療費を立て替えるとなると、労働者にとっては大きな負担となってしまう可能性があるのです。
よって、金銭面での安心はもちろん、スムーズな手続きのためにも、労災によるケガや病気は、労災指定病院で診てもらったほうが良いでしょう。
まとめ
パートをはじめとした、労災保険の対象についてご説明しました。
労災保険は、労働者のケガや病気に備えるため、幅広い雇用形態や症状に対応しています。どんな業種であっても労災が起こる可能性はあるため、労災保険はあらゆる労働者が安心して働くために制定されている重要な制度だと言えるでしょう。
ただし、労災保険を使用するには、それぞれの補償に合った請求書の提出を行わなければなりません。そしてその提出先も、医療機関か労働基準監督署長に分かれます。
また、事業主側にも報告や補償金などの対応が求められることがあります。
しかし、実際に労災が起こった場合には、「どう対応していいかわからない」「手続きが間違っているかも」と不安に思う方が多いでしょう。
そんな時は、自分だけで判断せず、法律のプロである弁護士にご相談ください。弁護士によるアドバイスは、正しくスムーズな手続きや労働者と事業主の安心にも繋がります。複雑な手続きは思い切って専門家の助けを借り、ケガや病気の療養や労働環境改善に専念するようにしたいですね。