自分の不注意で怪我をした場合でも労災は使える?損害賠償は過失相殺に注意!

労働者の仕事に関係する傷病は、労働災害(労災)と呼ばれ、労災保険によって補償されます。

とはいえ、仕事に関係する傷病にはさまざまなものが考えられます。場合によっては、自身の不注意で労災事故が起こり、労働者が怪我を負ってしまうこともあるでしょう。

このような場合でも、労災保険の補償は受けられるのでしょうか。

今回は、労働者が仕事中に自分の不注意で怪我を負った場合の労災適用の可否についてわかりやすく解説します。

自分の不注意で怪我をした場合でも労災は使える?

結論から述べると、労働者が仕事中に自分の不注意で怪我を負った場合であっても、労災保険の利用は可能です。なぜなら、本人の過失の有無は、労災認定および労災保険の適用には関係ないからです。

労災と認められるためには一定の要件を満たさなければなりませんが、この要件に「労働者自身の過失がないこと」という文言はありません。

次にご紹介する労災の要件さえ満たせば、自身の過失による業務中のケガであっても、被災労働者は労災保険の補償を受けることができます。

ただし、任意の自動車保険や自賠責保険などについては、被害者の過失は補償の考慮要素となります。任意保険の補償は、過失を踏まえた責任割合に応じて変わりますし、自賠責保険の場合は、7割以上の過失割合が認められる場合のみ補償額が減額となります。

交通事故による労災の場合には、労災保険だけでなく、任意保険や自賠責保険も利用の選択肢に上がりますが、「どの保険を使うか」は、各保険の性質と自身の過失割合を勘案して行うべきでしょう。

また、会社等に損害賠償請求を行う場合においても、過失相殺が行われる可能性はあることを押さえておきましょう。

損害賠償請求における過失相殺については「自分に過失がある場合の労災保険給付はどうなる?損害賠償における過失相殺とは?」で詳しく解説しています。

労災認定の要件

仕事に関連して負った傷病について、労災認定を受け、労災保険の補償を受けるには、次の要件を満たす必要があります。

【業務災害(業務中に負った傷病)の場合】

  • 業務起因性(業務と傷病に一定の因果関係がある)が認められること
  • 業務遂行性(事業主の支配下における事故である)が認められること

【通勤災害(通勤中に負った傷病)の場合】

次の通勤の定義を満たすこと

就業に際して、労働者が以下の移動を合理的な経路・方法で行うこと(※業務の性質を持つケースを除く)

  1. 住居と就業の場所との間の往復
  2. 就業の場所から他の就業の場所への移動
  3. 1に掲げる往復に先行または後続する住居間の移動

上記の各定義を満たす場合、その傷病は労災と認められます。この時、被災した従業員の過失の有無は、労災認定や補償額に一切影響しません。

労災を使うのは義務?

労災を使うことは、義務ではありません。そのため、被災労働者は「労災保険を使わない」という選択をすることも可能です。

しかし、労災保険の利用は雇用されて働く人々の権利です。また、業務に関連する傷病には健康保険を適用することはできません。

これを踏まえると、療養等の金銭的負担を軽減するためには、被災労働者は労災保険を積極的に利用していくべきでしょう。もし会社が労災保険を使わないよう求めてきても、それに応じる必要はありません。

ただし、業務中や通勤における交通事故で、任意保険や自賠責保険等、複数の保険の選択肢がある場合には、必ずしも労災保険が最適とは限りません。このようなケースでは、重複しない補償項目に対する保険の併用も検討しながら、もっとも手厚い補償が受けられる保険を選択するようにしましょう。

会社が労災申請に協力的でない場合の対処法

多くの場合、労災申請の手続きは、被災した従業員に代わって会社が行います。しかし、会社によっては、この手続きに協力的でなかったり労災を使わないよう求めてきたりすることもあるでしょう。

そのような場合には、次の方法で対処するようにしてください。

  • 自分の不注意でも労災を使えることを説明する
  • 労災隠しの違法性を説明する
  • 自分で労災申請を行う

上記3つの対処法について、詳しく見ていきましょう。

自分の不注意でも労災を使えることを説明する

まずは、自身の傷病が労災にあたり、労災保険の補償対象であることを、会社側に説明しましょう。ここまでご紹介してきた通り、たとえ労働者自身の過失による事故であっても、その状況が前述の労災要件さえ満たしていれば、労災保険の補償は受けられます。

会社側が「労働者自身の過失によるケガだから労災申請はしない」という認識の場合、その間違いを指摘し、労災申請の手続きを求めるようにしてください。

労災隠しの違法性を説明する

会社が労災の発生を隠そうとして、労災申請を拒む可能性も考えられます。

しかし、このような行為は「労災隠し」と呼ばれる違法行為です。発覚した場合には、会社は厳罰に処されることになります。

会社が労災を隠そうとする時には、その違法性を指摘し、適切な手続きを求めるようにしましょう。

労災隠しについては「【労働者向け】労災隠しはなぜばれる?会社の罰則と労働者が取るべき行動を解説」もご一読ください。

自分で労災申請を行う

会社がどうしても労災申請手続きを進めてくれない場合には、労働者自身が手続きを行うことも検討しましょう。

労災申請の手続きは、労働者自身で行えます。請求書を作成し、必要な資料を添付して、事業場を管轄する労働基準監督署に提出すれば、手続きは完了です。

請求書には事業主による証明欄が設定されていますが、この部分を会社が記入してくれない場合には、空白で提出しても構いません。提出時に「会社の協力が得られない」旨を伝えれば、書類は受理してもらえます。

労災申請を自分で行う手順

労災申請の手続きを労働者自身が行う場合の手順は次のとおりです。

  1. 労災保険給付の請求書を作成する
  2. 添付書類を準備する
  3. 労働基準監督署の窓口に提出する

ここからは、各手順について詳しくご説明します。

【手順①】労災保険給付の請求書を作成する

労災申請の手続きでは、まず労災保険給付の請求書を作成する必要があります。

労災保険には複数の給付があり、どの給付を受けるか、また業務災害が通勤災害かによって、使用すべき請求書の様式は変わります。どれも請求書名は似ているので、間違いのないよう気をつけましょう。

この請求書は、厚生労働省のWebサイトからダウンロードできます。

【手順②】添付書類を準備する

次に、添付書類の準備に入ります。

請求する給付によって、添付しなければならない書類は異なります。たとえば、療養(補償)給付を請求する際には領収書や請求書の添付が必要になる場合がありますし、障害(補償)給付の請求では医師の診断書やレントゲン写真が必要になります。

どの書類が必要かは状況によって異なるので、厚生労働省のWebサイト等でよく確認するようにしてください。

【手順③】労働基準監督署の窓口に提出する

書類の用意が整ったら、事業場を管轄する労働基準監督署の窓口に提出します。

もし事業主に証明欄を記入してもらえなかった場合には、このタイミングでその旨を担当者に伝えましょう。

書類が受理されれば、労働者側の手続きは終了です。あとは労基署が調査を行い、その結果を踏まえ、労働者に労災認定・不認定の結果を通知します。

ただし、労災指定病院を受診していて、療養(補償)給付を請求する場合には、書類の提出先は病院になるのでご注意ください。

会社に損害賠償請求を検討するなら弁護士に相談!

労災に遭った時には、労災保険の請求だけでなく、損害賠償請求も検討しましょう。

労災事故の発生に際して、会社に安全配慮義務違反や使用者責任といった法的責任が認められる場合、被災労働者は会社に損害賠償を請求することができます。

損害賠償請求では、労災保険では補償されない慰謝料も補償対象となります。この請求を行うことで、被災労働者はより手厚い補償を受けられるでしょう。

ただし、損害賠償請求が可能かどうか判断するには法律の知識が必要であり、また請求手続きも専門的です。よって、損害賠償請求を検討する場合には、労働問題を取り扱う弁護士に相談しましょう。

弁護士に依頼すれば、損害賠償請求の可否を適切に判断してもらい、またその手続きを任せることもできます。弁護士に代理で手続きを任せることができれば、被災労働者は自身の負担を軽減し、療養に専念できるでしょう。