熱中症は労災になる?労災認定の要件と給付内容を解説

「業務で使用していた機械で腕を怪我した」「通勤中に事故にあって骨折した」このような場合の怪我は、労災と判断されます。
労災は、業務に起因する怪我や病気を指すものです。労災の怪我や病気は、労災保険の補償対象となります。

とはいえ、どんな怪我・病気であっても労災になるわけではありません。
では、近年増えている熱中症はどうでしょうか。業務中や通勤中に熱中症になった場合、労災と認定されるのでしょうか。

今回は、労災における熱中症の取り扱いについて詳しく解説します。

熱中症が労災認定される要件

熱中症は、労災と認定される可能性のある病気です。
実際、厚生労働省の職業病リストにも、「暑熱な場所における業務による熱中症」との記載があります。
ただし、熱中症が労災認定を受けるには、一定の要件を満たす必要があります。その要件とは、以下の2つです。

熱中症の労災認定要件
①熱中症の発症が認められること(医学的診断要件)
②熱中症の発症が業務に起因すること(一般的認定要件)

これら両方の要件を満たした場合、その熱中症は労災と認定されます。
詳しく見ていきましょう。

①熱中症の発症が認められること(医学的診断要件)

熱中症の発症が労災と認められるためには、まず、気温や仕事環境、体温、診断などから「熱中症を発症した」ことが明らかでなければなりません。
熱中症の発症は、次の3点から判断されます。

・作業条件及び温湿度条件などの把握
・一般症状の視診(痙攣・意識障害など)、および体温の測及び体温の測定
・作業中に発症した頭蓋内出血、脳貧血、てんかん等による意識障害などの識別診断

これらの点から熱中症の発症が認められた場合、その症状は医学的診断要件を満たしたということになります。

②熱中症の発症が業務に起因すること(一般的認定要件)

熱中症になっても、それが業務に関係していない場合には、労災認定はされません。
熱中症で労災認定を受けるには、その熱中症の発症が業務に起因するものであるということが明らかである必要があります。

熱中症の発症が業務に起因するかどうかは、次の3点から判断されます。

・業務上の突発的又はその発生状態を時間的、場所的に明確にしうる原因が存在すること
・当該原因の性質、強度、これらが身体に作用した部位、災害発生後発病までの時間的間隔などから災害と疾病との間に因果関係が認められること
・業務に起因しない他の原因により発病したものでないこと

これらの点から熱中症の発症が業務に起因すると認められた場合、その症状は一般的認定要件を満たしたということになります。

熱中症が労災認定されたら、受け取れる労災給付と金額

前述の要件を満たし、熱中症が労災認定された場合、その労働者は労災保険からの給付金を受け取ることができます。
労災保険の給付には、以下のような種類があります。

労災給付の種類
・療養(補償)給付
・休業(補償)給付
・傷病(補償)給付
・障害(補償)給付
・介護(補償)給付
・遺族(補償)給付
・葬祭料(葬祭給付)

このうち、熱中症で医療機関の診療を受けたり、数日仕事を休んだりした場合に受け取ることができるのは、療養(補償)給付と休業(補償)給付の2種類です。
もし労災の熱中症で障害が残ったり亡くなったりした場合には、障害(補償)給付や遺族(補償)給付なども給付される可能性があります。

療養(補償)給付の金額

療養(補償)給付とは、労災による怪我や病気の療養に対する給付金です。具体的には、病院での治療費や出された薬代などが対象になります。

療養(補償)給付で支給される金額は、労災と認められた怪我や病気の療養にかかった実費の額です。
ただし、労災指定病院を受診した場合には、現物支給として無料で医療や薬の支給を受ける形になります。一方、労災指定病院以外の病院を受診した場合には、一旦労働者が費用を立て替え、後日労災保険から返金を受ける形になります。

休業(補償)給付の金額

休業(補償)給付は、労災による怪我や病気で休業を余儀なくされた場合に支給される給付金です。
休業(補償)補償給付の金額は、次の式で算出できます。

(給付基礎日額の80%)× 休業日数

休業(補償)給付では給付基礎日額の60%が支払われますが、それに休業特別支給金として20%がプラスされます。
つまり、労災で休業した場合、被災労働者は「給付基礎日額の80%」を受け取ることができるのです。

(休業(補償)給付の計算方法については、こちらで詳しく解説しています。「労災の休業補償の計算方法を詳しく解説|賃金の総額や土日のカウントについて」

こういうケースは労災になる?

熱中症は、業務中に発症するとは限りません。通勤中や帰宅後に熱中症になるケースもあります。
このような場合の熱中症は労災になるのでしょうか。
ここでは、通勤中や帰宅後の熱中症について、労災上の取り扱いをご紹介します。

通勤中に熱中症になった場合

通勤中に起こった労災は、通勤災害と呼ばれます。
通勤中に熱中症になった場合、通勤災害の要件を満たしていれば、労災と認められ、労災保険の補償を受けられる可能性が高いです。

通勤災害の要件は、「通勤」の定義を満たしていること。
「通勤」は、労働者災害補償保険法にて、次のように定義されています。

“通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。

一 住居と就業の場所との間の往復
二 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
三 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動”

(労働災害補償保健法 第7条より)

上記の合理的な経路を逸脱したり、移動を中断したりした場合、それ以降の移動は「通勤」とは認められません。
ただし、食料品の買い物や選挙の投票など、厚生労働省の認める日常生活上必要な行為については、逸脱・中断から元の経路に戻った後は、再び「通勤」と判断されます。

つまり、通勤として合理的な経路を移動中に発症した熱中症は、労災と認められるのです。

会社から帰宅後に熱中症になった場合

会社から帰宅後に熱中症になった場合、「業務に起因するかどうか、もしくは通勤中に発症したものかどうか」が労災認定のポイントになります。

会社からの帰宅時にアルコールを摂取して脱水症状に陥ったり、自宅の環境や自宅での水分補給不足によって熱中症になったりした場合、熱中症の発症は業務や通勤とは関係がなく、労災とは認定されません。
業務中や通勤中に既に不調が現れていた場合であれば、業務や通勤に起因するとして、帰宅後に発症した熱中症が労災認定される可能性はあります。

会社が労災の申請をしてくれない場合

労災の申請(労災保険の給付金請求)は、勤めている会社が行うのが一般的です。
しかし、労災によって怪我や病気を負ったのに、会社が労災を認めなかったり、労災の申請手続きを進めてくれなかったりするケースは、少なくありません。
そんな場合、怪我や病気を負った被災労働者はどう対応すれば良いのでしょうか。

労災隠しは違法

労災が発生したのに、意図的にその事実を隠すことは「労災隠し」と呼ばれます。「労災隠し」は、労働安全衛生法に反する違法行為です。
労災が発生した事実を隠したり虚偽の申告をしたりすれば、その会社には罰金などのペナルティが課せられます。

会社が認めなくても労災申請は可能

業務中や通勤中に負った怪我および病気を会社が労災と認めなくても、泣き寝入りする必要はありません。
労災の申請手続きは、被災労働者自らが行うことも可能です。請求する給付金の請求書を作成し、必要書類を添えて、管轄の労働基準監督署へ提出しましょう。

請求書には会社の証明欄がありますが、会社の協力が得られない場合は空欄で構いません。その場合は、労働基準監督署への提出時に「会社の協力が得られない」旨を伝えましょう。

会社が労災を認めない場合は、こちらの記事に参考にしてください。「労災を会社が認めない場合、どうすればいいか?」

熱中症の労働災害発生事例

ここでは、熱中症の労災発生事例を、厚生労働省「令和3年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(令和4年1月 14 日時点速報値)より引用しご紹介します。

事例1
「午前中に屋外の工事現場内において、材料空き袋の片付け等の軽作業に従事した。昼休憩に入る際に体調不良を訴えたため、空調の効いた社有車内において氷水等で身体を冷やすなどしていたが、しばらくして呼びかけに反応がなくなったため、病院へ搬送したもの の、数日後に死亡した。 なお、被災者は当該作業に従事し始めて5日目であった。」

事例2
「炎天下の工事現場においてポリエチレン管の組立て作業等に従事後、道具の片付けを行っていたところ、職長が、被災者がふらついていることに気づいたため、休憩室に連れて行こうとしたが、その途中、被災者が倒れ込んだ。救急搬送されたものの 、数日後に死亡 した 。 なお、被災者は当該現場に入場して2日目であった。」

安全配慮義務違反があるなら、損害賠償請求の検討を

労災保険は、労災を被った労働者に対し、さまざまな補償を行う公的保険です。
しかし、労災保険では労災によって被った精神的苦痛は補償されず、十分な内容だとは言えません。

もし、被った労災が、会社や第三者が法律に違反したことにより発生したものなのであれば、被災労働者は、会社や第三者に対し、法律違反を理由に損害賠償請求を行うことが可能です。
この場合の法律違反として多いのは、安全配慮義務違反でしょう。

安全配慮義務違反とは
労働契約法第5条による「雇用する労働者が安全で健康に働けるよう配慮する」という事業主の義務に違反すること
例:整備不十分の機械を使わせていた、劣悪な環境で作業をさせていた など

損害賠償請求では、精神的苦痛に対する補償を請求することができ、足りない補償を補える可能性があります。

損害賠償請求や安全配慮義務違反については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「労災における損害賠償請求とは?どのような種類の損害賠償が請求ができるか」
「労災によるケガや病気は、安全配慮義務違反になるのか?損害賠償請求方法も解説」

まとめ

熱中症は、業務に起因するもの、または通勤中に発症したものであれば、労災と認定される可能性があります。ただし、労災認定を受けるには、医学的診断要件と一般的認定要件を満たさなくてはなりません。
業務に関係のない原因で発症した熱中症については、労災認定は受けられないので注意しましょう。

また、労災については、会社との間でトラブルになる例が多く見られます。
労災トラブルに遭ったら、一人で抱え込まず、労災問題に強い弁護士へご相談ください。労災トラブルを有利に解決するには、法律の知識が必要です。法律の専門家である弁護士の手を借り、速やかなトラブル解決を目指しましょう。