労災事故が原因で亡くなった労働者の遺族には、遺族補償給付が支給され、遺族補償給付には、遺族補償年金と遺族補償一時金の2種類があります。そして、遺族補償年金は、「受給資格者」のうち最先順位者(受給権者)に対して支給されます。
遺族補償年金は、遺族の人数が一人の場合、原則として給付基礎日額の153日分が支給され、遺族にとっては生活を維持していくうえで欠かせない受給金ですので、誰がもらえるのかは非常に重要な事項となります。
遺族補償年金の受給権者となるのは、被災労働者の死亡当時その収入によって「生計を維持していた」配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹です。
したがって、受給権者となるには、①被災労働者の死亡当時その収入によって「生計を維持していた」という生計維持要件と、②被災労働者の「配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹」に該当する必要があります。そして、「配偶者」には、婚姻の届け出をしていなくても、事実上婚姻関係と同様の事情あった者も含まれると規定があります。
今回は、遺族(補償)年金の受給権者となりうる、内縁の妻(又は夫)の認定はどのようにされるのかを具体的に見ていきましょう。
1.生計維持要件
生計維持認定対象者に係る生計維持関係の認定については、生計維持関係等の認定日において、①生計同一要件及び②収入要件を満たす場合に、受給権者と被保険者との間で生計維持関係があるものと認定されます。
(1)生計同一要件
次に該当する場合、生計同一要件を満たします。
ア 住民票上同一世帯に属しているとき
イ 住民票上世帯を異にしているが、住所が住民票上同一であるとき
ウ 住所が住民票上異なっているが、次のいずれかに該当するとき
(ア) 現に起居を共にし、かつ、消費生活上の家計を一つにしていると認められるとき
(イ) 単身赴任、就学又は病気療養等の止むを得ない事情により住所が住民票上異なっている が、次のような事実が認められ、その事情が消滅したときは、起居を共にし、消費生活上の家計を 一つにすると認められるとき
(ⅰ) 生活費、療養費等の経済的な援助が行われていること
(ⅱ) 定期的に音信、訪問が行われていること
(2)収入要件
次に該当する場合は、収入要件を満たします。
ア 前年の収入が年額850万円未満であること。
イ 前年の所得が年額655.5万円未満であること。
ウ 一時的な所得があるときは、これを除いた後、前記ア又はイに該当すること。
エ 前記のア、イ又はウに該当しないが、定年退職等の事情により近い将来(おおむね5年以内)収入が年額850万円未満又は所得が年額655.5万円未満となると認められること。
2.「事実上婚姻関係」認定の要件
「事実上婚姻関係と同様の事情あった者」とは、いわゆる内縁関係にある者を言います。したがって、内縁関係にある夫(又は妻)が労災事故に巻き込まれた場合、内縁の妻(又は夫)は遺族補償年金を受け取ることができます。
そして、「内縁関係」とは、婚姻の届出を欠くけれども、社会通念上、夫婦としての共同生活と認められる事実関係をいい、次の要件を備えることを要します。
①当事者間に、社会通念上、夫婦の共同生活と認められる事実関係を成立させようとする合意があること。
②当事者間に、社会通念上、夫婦の共同生活と認められる事実関係が存在すること。
①の婚姻の意思については、当事者それぞれの申立書(当事者が死亡している場合にあっては死亡者に係る婚姻の意思についての第三者の証明書が必要)が必要です。申立書は、「事実婚関係及び生計同一関係に関する申立書」という日本年金機構所定の用紙があり、別世帯になっていた理由、別居していたことの理由、定期的な音信・訪問についての申し立て等について詳細に記載します。
②の婚姻の事実関係の存在については、場合に応じて表右欄に掲げる書類が必要となります。
認定対象者の状況 | 提出書類 |
住民票上同一世帯に属しているとき | 住民票(世帯全員)の写 |
住民票上世帯を異にしているが、住所が住民票上同一であるとき | a それぞれの住民票(世帯全員)の写し b 別世帯となっていることについての理由書 c 第三者の証明書又は下表に掲げる書類 |
住所が住民票上異なっているが、現に起居を共にし、かつ、消費生活上の家計を一つにしていると認められるとき | a それぞれの住民票(世帯全員)の写し b 同居についての申立書 c 別世帯となっていることについての理由書 d 第三者の証明書及び下表に掲げる書類 |
住所が住民票上異なっているが、単身赴任、就学又は病気療養等の止むを得ない事情により住所が住民票上異なっているが、次のような事実が認められ、その事情が消滅したときは、起居を共にし、消費生活上の家計を一つにすると認められるとき (ⅰ) 生活費、療養費等の経済的な援助が行われていること (ⅱ) 定期的に音信、訪問が行われていること | a それぞれの住民票(世帯全員)の写し b 別居していることについての理由書 c 経済的援助及び定期的な音信、訪問等についての申立書 d 第三者の証明書及び下表に掲げる書類 |
事実婚関係及び生計同一関係を証明する書類
認定対象者の状況 | 提出書類 |
①健康保険の被扶養者になっている場合 | 健康保険被保険者証の写 |
②給与計算上、扶養手当の対象になっている場合 | 給与簿又は賃金台帳等の写 |
③同一人の死亡について、他制度から遺族給付が行われている場合 | 他制度の遺族年金証書等の写し |
④挙式、披露宴等が最近(1年以内)に行われている場合 | 結婚式場等の証明書又は挙式、披露宴等の実施を証する書類 |
⑤葬儀の喪主になっている場合 | 葬儀を主催したことを証する書類(会葬御礼の写等) |
⑥その他①~⑤のいずれにも該当しない場合 | その他内縁関係の事実を証する書類(連名の郵便物、公共料金の領収証、生命保険の保険証、未納分の税の領収証又は賃貸借契約書の写等) |
なお、離婚の届出がなされ、戸籍簿上も離婚の処理がなされているにもかかわらず、その後も事実上婚姻関係と同様の事情にある方であっても、上記の要件に該当すれば、事実婚関係にあると認定されます。
様々な事情により、内縁関係という形をとるケースは多いでしょう。傍で大切な人を生活面、心理面で支え続けるというのは、戸籍上の夫婦であっても内縁関係の夫婦であっても変わりはありません。
大切な人が労災事故に巻き込まれた場合、内縁関係だからという理由で受給金の請求を諦める必要はありません。経済的にも精神的にも追い込まれないために、内縁関係のパートナーの労災でお悩みの方は、是非一度、法律事務所テオリアにご相談ください。