労働災害(労災)についての相談を受け付ける専門家としては、社労士(社会保険労務士)と弁護士の2種類が挙げられます。これらは、被災労働者の相談を受け、労災関連のさまざまな手続きの代行やサポートを行う職業です。
では、労災について専門家の手を借りたいと思った時、被災労働者は社労士か弁護士、どちらに相談すれば良いのでしょうか。
今回は、労災問題における社労士と弁護士の役割の違いについて詳しく解説します。
社労士(社会保険労務士)と弁護士の違い
社労士と弁護士は異なる職業であり、担う役割もそれぞれで異なります。まずは、社労士と弁護士の職業の概要と違いについて確認していきましょう。
社労士とは
社労士とは、労働および社会保障に関する法令にもとづいた書類の作成を代行する職業です。さらに、会社を適切に運営していくにあたって必要な労務管理や社会保険関連の相談・指導にも対応します。
社労士には国家資格が必要であり、その取得には既定の学歴や実務経験、国家試験への合格が必要です。
労災に遭った労働者が労災について社労士に相談した場合、社労士は被災労働者に代行して、労災申請の手続きを行うことが可能です。これを依頼した場合、社労士は労災申請に必要な労災保険の各給付金の請求書を作成します。
また、労働者は労災認定の判断に不服がある場合には審査請求を行えますが、この手続きに必要な書類の作成も、社労士に依頼することができます。
弁護士とは
弁護士とは、憲法や法律によって人権を擁護する職業です。個人や企業などから依頼を受けた弁護士は、刑事訴訟や民事訴訟、和解交渉などを担います。また、法律の専門家として、依頼者に対する法的なアドバイスやサポートを行うこともあります。
弁護士として活動するには、既定の学歴や司法試験への合格、その後の司法修習が必要です。
労災について弁護士に相談した場合、被災労働者は弁護士にあらゆる手続きを任せることができます。弁護士は、労災申請書類の代行はもちろん、会社や第三者に向けた損害賠償請求手続きやその交渉、裁判に進んだ場合にはその対応までも担います。
社労士と弁護士の違いは
社労士と弁護士の違いは、「法律行為を代行できるかどうか」にあります。
前述の通り、社労士が担うのは、労働や社会保障に関する書類の作成です。そのため、被災労働者に代わって労災申請の手続きを行うことはできますが、損害賠償請求手続きや交渉を行うことはできません。
一方の弁護士には、法律行為を代行することが許されています。よって、被災労働者に代わって会社や第三者への損害賠償請求手続きを行なったり、その交渉を行ったりすることが可能です。
そもそも、弁護士資格を取得した者は、試験を受けずに社労士資格にも登録することができます。
つまり、弁護士は法律行為の代行に加え、社労士が担う業務全般も担えるのです。
そのため、社労士が担う労災申請手続きの代行も、弁護士は行えます。
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社労士と弁護士には、担える業務の範囲に上記のような違いがあることを覚えておきましょう。
社労士か弁護士かどちらに依頼するのが良い?
前章で述べた違いを受け、社労士か弁護士どちらに依頼すべきか、手続き別に見ていきましょう。
労災の申請手続き
労災の申請手続きは、社労士に依頼することも弁護士に依頼することも可能です。
依頼したいのが労災の申請手続きや労災認定に不服がある場合の審査請求手続きだけの場合には、どちらに依頼しても良いでしょう。
労災申請の手続については「労災申請の手続きの流れをわかりやすく解説:知っておくべき注意点も紹介」で詳しく解説しています。
労災の損害賠償請求
損害賠償請求を代行できるのは、弁護士だけです。そのため、労災の申請手続きだけでなく損害賠償請求の手続きも依頼したいと考えている場合には、弁護士に相談するようにしましょう。
労災の申請手続きだけを社労士に依頼し、損害賠償請求手続きを弁護士に依頼するということも可能ではありますが、労災関連の手続きは一人の専門家に一貫したサポートを受ける方が効率的です。依頼先はできるだけ統一した方が良いでしょう。
労災の損害賠償請求については「労災で会社を訴えたい!損害賠償請求についてわかりやすく解説」でご説明しています。
労災申請を社労士に依頼するメリット
労災申請の手続きを社労士に依頼することには、次の3つのメリットがあります。
- 書類不備による手続きの遅延リスクを低減できる
- 労災保険の不支給リスクを低減できる
- 労災申請に関する会社とのやり取りを代行してもらえる
各メリットについて詳しく解説します。
書類不備による手続きの遅延リスクを低減できる
提出書類に不備があると、労災の手続きは遅延し、給付金の支給時期も遅くなります。給付金の支給が遅れることで、生活に支障が出るという方もいるでしょう。
これを避けるためには、不備のない書類作成が重要です。
社労士に依頼すれば、書類の不備をなくすことができます。不備のない書類で速やかに労災申請手続きが進めば、給付金も速やかに支給されるでしょう。
労災保険の不支給リスクを低減できる
労災認定の判断においては、労災申請時の提出書類が重要な役割を果たします。この書類の内容によって、労災認定の可否が決まると言っても過言ではないでしょう。
そのため、労災認定を受けるには、申請書類の書き方に注意しなければなりません。「業務遂行性・業務起因性を明確にする」「不備をなくす」など重要なポイントは複数ありますが、社労士に依頼すれば、これらのポイントを押さえた書類を代理で作成してもらうことができます。
専門家に書類を作成してもらうことで、労災給付金の不支給リスクは低減されるでしょう。
労災申請に関する会社とのやり取りを代行してもらえる
労災申請にあたっては、会社の証明が必要です。しかし、会社との間にトラブルがあり、自ら証明の依頼を行うのは難しいという方もいるでしょう。
社労士に依頼すれば、このような会社とのやり取りを代行してもらえます。トラブルがあっても、退職後でも、被災労働者自らが会社と直接連絡を取る必要はありません。
専門家が間に入ることで、会社の協力が得やすくなることも考えられます。
労働問題を弁護士に相談するメリット
- 損害賠償請求を代行してもらえる
- 適切な後遺障害認定を受けられる
上記2つのメリットについて詳しくみていきましょう。
損害賠償請求を代行してもらえる
労災の発生に会社の法的責任が認められる場合には、被災労働者は会社に対し損害賠償請求を行うことができます。
損害賠償請求では、まず会社と交渉をし、和解に至らなかった場合には訴訟へと手続きを進めることになりますが、これらの交渉や手続きには専門知識が必要。一般の方が自分だけで対応するのは困難です。
弁護士に依頼すれば、被災労働者はこの一連の手続きを代理人である弁護士に任せることができます。これにより被災労働者の負担は軽減されるでしょう。
また、法律の知識と経験を持つ弁護士が間に入ることで、会社から誠意ある対応を引き出すことも可能です。
損害賠償請求を有利かつスムーズに進めるためにも、弁護士への依頼は有効です。
適切な後遺障害認定を受けられる
労災の後遺障害については、相手に対し、後遺障害慰謝料という慰謝料を請求することができます。
この慰謝料の額を大きく左右するのが、「後遺障害認定・非認定の判断」および「認定される後遺障害等級」です。後遺障害が認定されなければ慰謝料は受け取れず、認定されても等級が低ければ慰謝料も低くなります。
「後遺障害認定・非認定の判断」や「認定される後遺障害等級」の判断材料となるのが、医師による診断書です。そのため、この診断書の内容は非常に重要なのですが、弁護士は、診断書の内容を確認したり医師にアドバイスしたりして、後遺障害認定をサポートすることが可能です。
つまり、弁護士に依頼することで適切な後遺障害認定を受けられる可能性は高くなると言えるでしょう。
労災問題を弁護士に依頼するメリットについては「なぜ労災は弁護士に相談するべき?弁護士に依頼するメリットを解説」でもご紹介しています。
まとめ
労災関連の手続きを進めるには、知識と手間が必要です。傷病を負った被災労働者にとってこれらの手続きは負担が大きく、不安を感じる方も多いでしょう。
そこで検討したいのが、社労士や弁護士の手を借りることです。専門家のサポートを受けることで、労災手続きの負担は軽減できます。