トラックドライバーの労災状況とその事例

トラックドライバーと一言で言っても、トラックの大きさ、運ぶ荷物の内容、資格取得の有無によって、その仕事内容は様々です。

ここでは、事例も含めて以下にまとめましたので詳しく見ていきましょう。

大型、中型トラックのドライバーは、依頼を受けた指定の荷物を、荷揚げ場所から荷卸し場所まで配送するのが主な仕事です。 長距離を走る事が多く、トラックの中で睡眠をとることもしばしばあるでしょう。フォークリフト免許も所持している場合は、荷物の揚げ卸しを兼任する場合もあります。人間関係の煩わしさは比較的少ないかもしれませんが、長時間の運転に加え、重量のある荷物を運ぶのですから体力勝負の仕事と言えます。
小型トラックのドライバーは、大型・中型トラックで主要な都市から配送された荷物を、その都市から各エリアへ分配するのが主な仕事です。

普通免許で運転できるトラックの中でも、積載可重量の豊富さから大量の荷物を指定のルートへ配送する業務が多くあります。
集配所から集配所へのルート配送、宅配業務など、所属する運送会社によって業務内容は異なります。大型トラックのように、車内で睡眠をとることはあまりないかもしれませんが、短時間で複数の配達拠点へ配達しなければならない場合もあり、多忙な仕事と言えるでしょう。
今回は、このようなトラックドライバーの労災状況について詳しく見ていきましょう。

平成30年度のトラックドライバーの労災発生状況

トラックドライバー、すなわち陸上貨物運送事業に従事する死亡者数は、大幅に増加した前年より 35 人(25.5%)減少しましたが、死傷者数は、前年より 1,112 人(7.6%)増加し、3年連続の増加となりました。労働者死傷病報告による死傷者数が 15,000 人を超えたのは、平成20 年以来 10 年ぶりのことです。

陸上貨物運送事業 事故の型別 労働災害発生状況

事故の型別では、死亡災害では、「交通事故(道路)」が最も多いですが、近年は横ばい、わずかな増加となっています。近年増加している「墜落・転落」、「はさまれ・巻き込まれ」などの荷役作業時に発生する災害も昨年は減少したものの、熱中症等の「高温・低温物との接触」が大きく増加しています。

死傷災害では、「交通事故(道路)」は減少したものの、「墜落・転落」、「転倒」、「動作の反動・無理な動作」が増加しました。

陸上貨物運送事業では、死亡者数は前年を下回りましたが、死傷者数は3年連続で前年を上回りました。
平成 30 年は、輸送活動の大きさを示す貨物自動車の輸送トンキロ数が前年同様高い水準で推移しており、陸上貨物運送事業の需要の増加もあって、死傷災害が増加したと考えられます。

荷役作業時の災害を防止するため、厚生労働省は、陸運事業者と荷主等に対し、平成 25年に策定した「陸上貨物運送事業における荷役作業の安全対策ガイドライン」に則した取り組みをするよう働きかけ、また、荷役作業時の死亡災害の約8割を占める「墜落・転落」、「荷崩れ」、「フォークリフト使用時の事故」、「無人暴走」及び「トラック後退時の事故」を荷役5大災害と位置づけた重点的な取り組みを促しています。

ただ、上記のような結果を見ると、ガイドラインの意識が現場の隅々まで徹底されているとはいえず、ドライバー不足と需要の増加から現場のドライバーにしわ寄せが行ってしまう現状があります。
また、トラックドライバ―に関する労災事故は、作業中に突発的に起こる事故だけではなく、長時間労働等の理由から徐々に身体に負担をかけ、脳・心臓疾患になってしまうケースも多く、看過できません。

脳・心臓疾患の業種別請求、決定及び至急決定件数

トラック運転手の脳・心臓疾患事案の発症又は、精神疾患に係る要因は、拘束時間が長いことが最も多く、さらに早朝勤務、不規則な勤務と、勤務時間に無理を重ねることが挙げられています。これらの疾患により過労死してしまうケースも多々あります。

トラックドライバーの荷下ろしの労災事例について

<事例①>積み込み作業中、誤ってトラックの荷台から転落した

被災者は、積み込み作業を行うために出荷口へ向かったが、一向に積み込み作業が行われていないため不審に思った別の作業員が出荷口へ出向いたところ、トラックの横に倒れている被災者を発見した。誤ってトラックの荷台から転落したものと思われる。

原因

1.高さ約3mの墜落の危険があるトラックの荷台上で作業を行うにあたり、安全帯を使用していなかったこと。
2.最大積載重量13トンのトラックの荷台上で作業を行うにあたり、保護帽を着用していなかったこと。
3.被災者を含む作業者に対し、トラックの荷台上で作業を行わせるにあたり、保護帽及び安全帯が適切に使用されていることを確認、管理していなかったこと。

対策

1.トラックの荷台上の作業においては、必ず安全帯を使用すること。
2.トラックの荷台上の作業においては、必ず保護帽を着用すること。
3.作業者に対し、保護帽及び安全帯の使用の徹底を図ること。

<事例②>荷降ろし中、トラックのテールゲートから荷が落下し、下敷きになった

被災者ら搬入先の労働者4名と、荷を運んできた運送会社の運転手の、合わせて5名は、トラックで運ばれて来た機械(1.2t)3台を積み降ろす作業をしていた。具体的には、キャスターに乗った機械をトラックの荷台からテールゲートまで移動させてから、リモコン操作でテールゲートを地面の高さまで下げてから倉庫の奥に運ぶという作業であった。2台の機械を運び終え、3台目の機械をテールゲートに移動させたとき、トラックが、後ろ向きに傾き、機械が落下し、被災者が下敷きとなった。

原因

1.傾斜のある場所にトラックを止めて作業をしていたこと
積み降ろし作業は、トラックの後ろ側を倉庫の入り口に向けて行われていたが、入り口に向かって地面が下っていたにもかかわらず、修正治具などは使われていなかった。このため、荷が後方に傾きやすい状態であった。
2.テールゲートの最大積載荷重を超えていたこと
テールゲートの最大積載荷重は、1tであるのに対し、荷は1.2tであった。このため、トラックの後方が沈みやすい(前方が浮き上がりやすい)状態であった。
3.事前に、作業手順や作業方法が定められていなかったこと
今回の作業では、作業指揮者が定められておらず、作業方法や作業分担なども特に定められていなかったため、被災者は、荷が滑り落ちやすいテールゲートの後方で作業をしていた。

対策

1.トラックが水平な状態で荷を降ろすこと
トラックから荷降ろしを行う場合は、原則として、平坦な場所で行う。傾斜のある場所で行う場合は、修正治具を使用し、トラックが水平となっていることを確認してから荷を降ろさなければならない。
2.最大積載荷重を超えないこと
テールゲートを用いて荷の積み卸しを行うときは、事前に荷の重量とテールゲートの最大積載荷重を確認し、最大積載荷重を超える荷の積み降ろし作業には使用しない。
3.作業指揮者、作業方法等を定め、それに基づき作業を実施すること
あらかじめ、荷や場所などの状況を踏まえ、作業方法や作業分担を定め、それに基づく作業を徹底しなければならない。また、作業指揮者も事前に決めておく必要がある。

<事例③>トレーラの運転中、下り坂で側壁に衝突し横転した

被災者は,運行経路の指示を受け2台で出庫したが、運行指示経路とは別の近道を運行し、上り坂で先行する先輩運転者の運転する連結車(基準内)と離れたため、下り坂で追いつこうと速度を上げ、右カーブに差し掛かったところでエンジンブレーキをかける為2速にシフトダウンしようとしたが、速度が出過ぎてギヤが入らず、減速できないまま時速55 km/h で先行車両への追突を避けるためにハンドルを右に切ったため横滑りし、トラクタが右側コンクリート壁に衝突した。弾みでトレーラが横転し、同時にトラクタも横転した。

原因

1.安全運行の認識不足
先行車との距離が離れたため焦りがあったため、夕刻の暗いカーブで速度を出しすぎたことに加え、カーブの認識が遅れていた。
2.指示経路外運行
運行指示経路を守らず、湿潤であった路面を走行してしまった。
3.減速操作の遅れ
速度が出すぎて減速できなかった。

対策

1.運転者に対して輸送の安全確保 について指導監督の徹底
日報及びチャート紙による運行状態の把握をした上で、安全を認識させるための指導をしなければならない。
2.梯団走行時の安全確保の徹底
梯団走行に際しては、運転経験等による走行順等の指導に加え、安全確保のためにすべき事項の指導をする必要がある。
3.基準緩和車両の安全運行の徹底
車両の特性に係る教育の実施、及び指示した運行経路を遵守させなければならない。

<事例④>トラックの長距離運転中、脳出血を発症し死亡

被災者は、運送会社の大型トラック運転手として長距離の貨物運送業務に従事しており、一人乗務による、東北方面から関西・関東方面への往復運行を主に行っていた。発症当日は、午後3時ころ関東地方にある荷主先に到着し、荷物を積み混み休む間もなく午後5時ころ荷主先を出発し、午後11時ころ配送先に到着し、車両内で休憩・仮眠をとっていた。翌日午前2時ころ、車外で意識不明となって倒れているところを発見され、病院に搬送されたが脳出血による死亡が確認された。

なお、被災者には高血圧症の既往があり、毎日1、2合程度の飲酒、一日20本程度の喫煙を嗜んでいた。

原因

被災者の過剰な業務や異常な環境が、被災者の高血圧症の自然経過を超えて、血圧の急激な上昇を引き起こし、高血圧性脳内出血を発症させた。

つまり、被災者の業務は、発症の数日前から日常の業務に比較して過剰な業務であった。発症前日も深夜まで仕事に従事し、その後車内に就寝する等一般的日常とは異なる環境にあったと考えられ、これにより血圧の上昇を引き起こしたと思われる。さらに、排尿のために冬の深夜に車外に出て、急に寒冷な環境に置かれた結果、血管の急激な収縮を引き起こし、血圧が上昇した可能性も考えられる。

対策

今回の事例を「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」に照らせば、拘束時間、運転時間、休憩時間等すべての点で違背しており、勤務時間の調整や交代要員の確保など、勤務状況全体を改善する必要がある。