労働保険料とは|労災保険と雇用保険の違いを徹底解説

労働保険は、労働者の安全な補償を支える重要な制度です。
この保険制度を構成するのが、労災保険と雇用保険のふたつ。これらの保険は異なるものですが、内容を混同してしまっている人も少なくありません。
万が一の際に適切な補償を受けるためには、日頃からそれぞれの保険の内容について正しく理解しておくことが大切です。

そこで今回は、労働保険制度を構成するふたつの保険の違いについて詳しく解説します。
会社で働く社会人として、各保険への知識を深めていきましょう。

労働保険とは

複数ある社会保険制度のうち、労災保険(労働者災害補償保険)と雇用保険という2種類の保険を併せて、「労働保険」と呼びます。
これらの保険は、強制加入の対象である公的保険にあたるもの。労働者を雇用しているすべての事業で加入が義務付けられているため、対象の事業主は必ず速やかに加入手続きを行わなければなりません。

労働保険制度は、日本では1975年に全面導入されました。
この制度は、業務で傷病を負ったり失業したりした場合の補償となるものであり、労働者の生活の安定を助ける手段として、現在も運用が続けられています。

労働保険を構成する労災保険と雇用保険では、給付は別々に行われます。しかし、効率性を重視したため、保険料の徴収は一本化されています。

「労災保険」と「雇用保険」の違いとは?

まずは、労働保険の各保険の違いについて確認していきましょう。

労災保険とは

労災保険(労働者災害補償保険)とは、業務に起因する労働者のケガや病気、死亡などに対して補償を行う制度のこと。会社に雇用されて働く従業員が業務中や通勤中に傷病(死亡)を負った場合には、その傷病(死亡)は「労働災害」であると判断され、労災保険による補償対象となります。

補償内容は給付金の支給がメインで、7種類の給付金の中から、その労働者の労災の状況に応じた給付金が支払われます。

労災保険は、労働者を対象としています。しかし、特別加入制度を利用すれば、労働者にはあたらない個人事業主や会社経営者も、任意で労災保険に加入することは可能です。
また、基本的に健康保険のような保険証はありませんが、特別加入の場合には加入証が発行されることもあります。

雇用保険とは

雇用保険とは、失業した労働者に対し補償を行う制度のこと。給付金の支給だけでなく、再就職や労働者の能力開発、失業予防、労働者福祉の増進に向けたサポートも行われます。ハローワークが提供するサービスも、その一環です。
また、雇用保険に加入している事業所は、従業員の雇用継続を促進するための助成金が支給されることもあります。

雇用保険には、労災保険のような特別加入制度はなく、加入できるのは労働者のみとなります。
また、労災保険と異なり、雇用保険には被保険証が存在することも覚えておきましょう。

労災保険はすべての労働者が加入する

労災保険の加入対象となるのは、すべての労働者です。ここでいう労働者とは、会社(事業主)に雇用されて働き、賃金を得ている人のことを指します。
労災保険の加入に、雇用形態や雇用日数は関係ありません。正社員はもちろん、契約社員も派遣社員(派遣元で)もアルバイト・パートも含めたすべての従業員に、加入の必要性があります。

代表権・業務執行権を有する役員や個人事業主、事業主と同居の家族などは、基本的に労災保険の加入対象にはなりません。しかし、条件を満たせば、特別加入という形で労災保険に加入できることはあります。

雇用保険の加入条件|学生は対象外

雇用保険は、次の要件を満たす労働者が加入対象となります。

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上あること
  • 31日以上の雇用見込みがあること

上記の要件をどちらも満たしている労働者は、雇用形態に関係なく、必ず雇用保険に加入しなければなりません。この場合も、派遣社員は派遣元での加入となります。

ただし、取締役や個人事業主、事業主と同居の家族、季節的事業に雇用される者、臨時内職的に雇用される者などには、基本的に雇用保険の加入は適用されません。
学校教育法第1条に定められている「学生」も雇用保険の加入対象にはなりませんが、中には例外もあります。

1.卒業見込証明書を有する者であって、卒業前に就職し、卒業後も引き続き当該事業に勤務する予定である
2.休学中である
3.大学の夜間学部・高等学校の夜間または定時制課程に通学している
4.事業主の命令、または事業主の承認を受けて、雇用関係を維持したまま、大学院等に在学している
5.一定の出席日数を課程修了の要件としない学校に在学していて、同種の業務に従事する他の労働者と同じように勤務し得ると認められる

上記に当てはまる場合には、「学生」という立場であっても、雇用保険には加入することになります。

労働保険料(労災・雇用保険)はどのように決まるのか

労災保険と雇用保険の保険料は、労働保険料として一括徴収されています。しかし、各保険料の計算方法は以下のように異なります。

労災保険料の計算式

支払う労災保険料は、次の計算式で算出されています。

労災保険料=賃金総額×労災保険率

上記の「賃金総額」とは、事業主が労働者に支払った賃金の総額のこと。賞与や各種手当は含まれますが、役員報酬や退職金、結婚祝金、出張費などは含まれません。
また、「労災保険率」とは、事業の種類によって定められている掛け率のこと。その事業における労災が起こる危険性が高ければ、労災保険率も高くなります。

具体的な掛け率については、厚生労働省の「労災保険率表」をご確認ください。

雇用保険料の計算式

支払う雇用保険料は、次の計算式で算出されています。

雇用保険料=賃金総額×雇用保険料率

この場合も、基礎となるのは事業主から支払われた「賃金総額」です。雇用保険の場合、この「賃金総額」に「雇用保険料率」を掛けて、保険料を求めます。

「雇用保険料率」は業種によって異なり、その率は毎年見直しが行われます。

労働保険料(労災・雇用保険)は誰が支払う?

労災保険と雇用保険は、「保険料の支払いを誰が行うのか」という点でも異なります。それぞれの対応をみていきましょう。

労災保険は会社負担

労災保険の保険料を支払うのは、会社(事業主)です。全額を会社が支払うため、労働者自身の負担はありません。

雇用保険は双方で負担

雇用保険の保険料は、会社(事業主)と労働者双方が負担します
この時の会社と労働者の負担割合は折半ではなく、業種区分(一般の事業、農林水産・清酒製造の事業、建設の事業の3種)によって、それぞれの負担率が定められています。

加入手続きは事業主側が行う

労働保険の加入手続きは事業者側で行う必要があります。

この手続きでは、まず所轄の労基署または公共職業安定所に「保険関係成立届」を提出しなければなりません。続いて、その年度分の労働保険料を概算保険料として申告し、納付します

また、雇用保険の加入については、上記に加え、「雇用保険適用事業所設置届」「雇用保険被保険者資格取得届」を作成し公共職業安定所に提出する必要があります。

各書類の手続き期限は次のとおりです。

  • 保険関係成立届・・・保険関係成立の翌日から10日以内
  • 概算保険料申告書・・・保険関係成立の翌日から50日以内
  • 雇用保険適用事業所設置届・・・設置の日の翌日から10日以内
  • 雇用保険被保険者資格取得届・・・資格取得の事実があった日の翌月10日まで

【その他】社会保険制度の概要

現在の日本で社会保険制度として整備されているのは、労働保険だけではありません。他にも、健康保険や厚生年金保険、介護保険といった制度が存在します。
最後に、これらの制度の概要についても確認しておきましょう。

健康保険

健康保険は、病気やケガ、出産、死亡などに備えるための公的医療保険です。この保険制度では、医療を受けた際の医療給付や病気・ケガによる休業時の手当金などの支給を行い、国民の安定的な生活を守ります。

日本では「国民皆保険制度」が取られているため、健康保険(国民健康保険、共済保険、船員保険等含む)への加入はすべての国民の義務となっています。

健康保険の保険料は、報酬に健康保険料を掛けて算出され、その支払いは会社(事業主)と労働者の折半で行われます。

厚生年金保険

厚生年金保険は、公的年金制度のひとつ。日本の公的年金は2階建て構造と言われていますが、厚生年金はその上階部分(下階は国民年金)にあたります。
すべての国民が対象となる国民年金と異なり、会社に勤める労働者だけが対象となる点が、厚生年金の特徴です。

厚生年金の保険料率は一定です。この率を収入に掛け合わせることで、保険料額が算出されます。
また、その支払いは会社(事業主)と労働者の折半で行われます。

介護保険

介護保険とは、必要な時に介護サービスを受けるようにするための保険制度で、加入対象は40歳以上です。
この保険では、介護が必要だと認定された65歳以上の方、または特定疾病により介護が必要だと認定された40〜64歳の方に、1〜2割程度の自己負担で介護サービスを提供します。

保険料の計算は加入している健康保険の種類によって異なり、その支払いは会社(事業主)と労働者の折半で行われます。

まとめ

労働保険は、会社に雇用されて働く人々の生活を守る重要な制度です。
この保険への加入は強制(雇用保険は要件あり)であり、その義務は事業主に課せられます。対象の労働者を雇用する事業主は、必ず労働保険への加入手続きを行わなければなりません。

とはいえ、中には保険料の支払いを避けるため、保険加入の手続きをしない事業主もいるようです。もし、自身の所属する会社が労働保険に加入していないような場合には、労働基準監督署や弁護士への相談を検討すると良いでしょう。