労災における症状固定とは|労災保険給付の申請方法や再発した際の対応を解説

業務のせいで労働者が負ったケガや病気、死亡などを、労働災害(労災)と呼びます。
そして、この労災を補償するのが労災保険です。この保険は、被災した労働者に対し給付金の支給を行い、傷病や死亡による損害を補償します。

また、労災保険では「症状固定」というものが給付金の支給に大きく影響します。
では、症状固定とは一体何なのでしょうか。またどのように給付金に影響するのでしょうか。

今回は、労災の症状固定について詳しく解説します。

症状固定とは

厚生労働省の資料では、「症状固定」を以下のように定義しています。

【症状固定】
傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行なっても、その医療効果が期待できなくなった状態
(厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署『労災保険 療養補償等給付の請求手続き』)

ここでの「医学上一般に認められた医療」とは、労災保険の療養の範囲として認められる医療のこと。これには、研究段階の医療は含まれません。

つまり、労災の症状固定とは、労災による傷病について、これ以上一般的な医療を施しても改善の見込みがない状態を指すのです。完全に傷病が治った「完治」の状態を指すのではなく、場合によっては症状が残る状態でも症状固定とされる可能性があることを知っておきましょう。

また、症状固定は「治ゆ」と呼ばれることもあります。

症状固定の例

労災で負ったケガや病気が症状固定となるケースの例をみてみましょう。

痛みはあるものの、業務で負った傷の傷面が癒着して安定し、その後療養を続けても改善を期待できない

労災による骨折後、骨が癒合し、そのリハビリのために理学療法を行うものの、治療時には運動障害が回復するが、しばらく経つとまた運動障害が発生するという状態が一定期間続いている

業務中に頭部外傷を負い、外傷自体は治り症状も安定したが、その後遺症としててんかんの症状が残り、その後療養を続けてもてんかんの改善を期待できない

通勤中の交通事故による外傷によって頭蓋内出血を起こし、体に麻痺が残ったが、症状が安定していてその後療養を続けても改善を期待できない

業務で腰を痛め、急性症状が消滅した後、慢性的な疼痛が続いているが、症状が安定していてその後療養を続けても改善を期待できない

上記のようなケースでは、被災労働者の体に疼痛や麻痺などの一定の症状が残っています。しかし、状態が安定していて医療による効果が期待できないことから、症状固定と判断される可能性は高いでしょう。

症状固定後の労災保険給付について

ここからは、症状固定が労災保険に与える影響について解説していきます。

療養・休業(補償)給付は打ち切りになる

症状固定になると、以下の給付金の支給は打ち切りになります。


療養(補償)給付・・・労災による傷病の治療費や入院費、薬代など療養に必要なサービスもしくはその実費を支給する給付金
休業(補償)給付・・・労災による傷病で休業を余儀なくされた場合に、休業4日目から支給される給付金


これらの給付金は「療養中であること」が支給要件のひとつになります。
症状固定は「療養の継続による効果が期待できない」、つまり「療養が必要なくなった」状態のこと。よって、症状固定と診断されれば、上記の支給要件は満たされなくなり、それ以降これらの給付金は打ち切りとなります

障害(補償)給付を受け取れる可能性がある

前述のとおり、医師に症状固定と判断された場合には、一部の給付金が打ち切りとなります。
しかしその一方で、新たに申請が可能になる給付金も。それが、障害(補償)給付です。


障害(補償)給付・・・労災の傷病が治った時に、身体に一定の障害が残った場合に支給される給付金


症状固定後に残った症状が、既存の障害等級の内容に当てはまる場合には、被災労働者は障害(補償)給付を受け取ることが可能です。

この給付金は、年金型と一時金型の2種。該当の等級が1~7級の場合には年金を、8~14級の場合には一時金を受け取れます。
また、等級が上がるほど身体に残った障害の程度は重くなり、支払われる金額は大きくなります。

さらに、場合によっては介護(補償)給付を受けられることもあるので、傷病や労災保険の状況が変わる時には、自身がどの給付金の対象になるのか必ず確認するようにしましょう。

労災保険給付の申請方法

労災保険の給付を受けるには、申請手続きが必要です。
ここでは、複数ある給付金の中でも、症状固定後の障害(補償)給付の申請方法について、次の3ステップでご紹介します。


  1. 医師の診断書などの証拠の確保
  2. 労働基準監督署に申請
  3. 後遺障害等級認定の面談を受ける

各手続きを詳しくみていきましょう。

医師の診断書などの証拠の確保

障害(補償)給付を申請するためには、医師の診断書やレントゲン写真などの資料が必要です。これらの資料は、身体に残った障害の程度を証明する証拠となります。
特に、診断書の内容は、給付金の支給決定に大きく影響します。そのため、医師には「障害(補償)給付を申請するための診断書である」ことを事前に伝えておいた方が良いでしょう。

この場合の診断書には、専用の「労働者災害補償保険診断書」を利用します。この用紙は、厚生労働省のホームページから取得可能です。

また、診断書の作成にかかった費用は4,000円までなら、療養(補償)給付から補償されるので、この請求手続きも忘れないようにしましょう。

労働基準監督署に申請

資料が揃ったら、請求書を作成し、書類一式を労働基準監督署へ提出します。
この時作成する請求書は、次のどちらかです。


  • 業務災害の場合→障害補償給付支給請求書(様式第10号)
  • 通勤災害の場合→障害給付支給請求書(様式第16号の7)

さらに、同一の事由で障害厚生年金や障害基礎年金などを受け取っている場合には、その支給額がわかる書類も添付しましょう。

後遺障害等級認定の面談を受ける

書類を提出したら、労働基準監督署の審査が始まります。
この審査では、労働基準監督署の担当者による面談が行われるため、必ず対応するようにしましょう。
またこの面談では、自身の症状を正しく伝えることが重要です。面談時の伝え漏れがないよう、伝えるべきことは事前にある程度まとめておくようにしましょう。

支給・不支給の決定や障害等級の決定には、数週間から数ヶ月程度かかります。
結果が出れば、労基署から通知が届き、支給決定の場合には後日指定口座に給付金が入金されます。

症状固定後に再発・悪化した場合は?

医師から症状固定と判断された後であっても、傷病が再発したり、残存する症状が悪化したりする可能性はあります。
そのような場合には、以下の3つの要件さえ満たせば、被災労働者は再度、療養(補償)給付や休業(補償)給付を受けることができます


  • 症状の再発・悪化に、当初の業務に起因する傷病と相当の因果関係があること
  • 症状固定の時より、明らかに症状が悪化していること
  • 医学的療法による改善が期待できること

また、労災による骨折などで身体にボルトやプレートを入れた場合、後日それらを再手術で取り除くことがあります。労災保険では、この再手術についても、再発として扱うことが可能です。

会社に損害賠償請求をする

労災に遭った時には、労災保険の請求だけでなく、会社への損害賠償請求も検討する必要があります。
なぜなら、労災保険だけでは補償が十分とはいえないからです。

労災保険では、傷病を負ったことに対する慰謝料は補償されません。一方、損害賠償請求では、相手に対し慰謝料を請求することが可能になります。
労災保険と損害賠償で、重複して補償を受けることはできませんが、労災保険の対象外となる補償を損害賠償で補うことで、被災労働者はより手厚い補償を受け取ることができます。

会社に法的責任があれば損害賠償請求は可能

損害賠償請求ができるのは、労災の発生にあたって会社に法的責任がある場合です。例えば、安全配慮義務違反や使用者責任、工作物責任など。
ただし、それを判断するには法律の知識が必要です。

ですので、損害賠償請求を検討する場合には、まずは弁護士に相談し、判断を仰ぎましょう。法律の知識と経験に長けた弁護士の手を借りれば、会社の法的責任を正しく判断し、より有利に損害賠償請求を進めることが可能になります。

まとめ

労災の症状固定は、労災給付の内容が変わる重要なタイミングです。この判断によって、それまでの給付金は打ち切りとなり、場合によっては新たな給付金の申請手続きが必要になります。
症状固定の判断は医師が行うため、正しい判断を受けるためにも、日頃から医師とはよくコミュニケーションを取っておくようにしましょう。

また、労災問題は弁護士に依頼することで、円滑な解決を目指せます。会社への損害賠償請求を検討する場合や何らかの労災トラブルに巻き込まれた場合には、労働問題を扱う弁護士にご相談ください。