労災による脊髄損傷の取り扱いについて|合併症も適用される?

労災保険には、さまざまな補償が用意されており、症状によって適用されるものは異なります。

適切な補償を受けるためには、自身の症状がどの補償の対象となるのかしっかり把握し、然るべき手続きを行わなければなりません。

では、労災で脊髄損傷を負った場合、労災保険ではどのような補償を受けられるのでしょうか。

今回は、脊髄損傷時の労災の取り扱いについて詳しく解説します。

労災による脊髄損傷の取り扱いについて

脊髄とは、脳から背骨に沿って腰に向け伸びる中枢神経のことです。この神経は、脳からの命令を体の各部に伝える役割を担う重要なもの。人間の手足が動いたり、外部からの刺激を感じたりするのにも、脊髄の働きが関係しています。

脊髄損傷とは、この脊髄が何らかの原因によって損傷してしまうことを指します。その主な原因は、脊椎の骨折や脱臼による脊髄の圧迫。損傷した脊髄は回復が難しく、上肢・下肢の麻痺や感覚障害などの症状が続きます。

業務中の脊髄損傷は労災保険給付の対象になる

業務中や通勤中の事故による脊髄損傷は、労働災害として、労災保険の給付対象になります

ただしそのためには、以下の業務災害または通勤災害の要件を満たさなければなりません。

【業務災害の要件】

  • 業務起因性(業務と傷病に一定の因果関係がある)が認められること
  • 業務遂行性(事業主の支配下における事故である)が認められること

【通勤災害の要件】

通勤の定義(労災保険法第7条②)を満たすこと

それぞれの要件を満たした場合、被災労働者は労災の認定を受け、労災保険の給付を受けることができます。

業務起因性と業務遂行性のどちらか、または両方が認められない場合、もしくは事故に遭った時の状況が通勤に当てはまらない場合には、それは労災にはならず、給付も行われません。

脊髄損傷による労災保険給付の内容

労災事故で脊髄損傷を負った場合、被災労働者は次の労災保険給付を受けられる可能性があります。

  • 療養(補償)給付:労災による傷病の療養に必要なサービスまたは費用を補償する給付
  • 休業(補償)給付:労災の傷病による休業時に行われる補償
  • 傷病(補償)年金:労災の傷病で療養を開始してから1年6ヶ月経っても治癒せず、その状態が規定の傷病等級に該当する場合に行われる補償
  • 障害(補償)給付:労災の傷病が治ゆした時の状態が規定の障害等級に該当する場合に行われる補償
  • 介護(補償)給付:労災の傷病で介護が必要になった場合に行われる補償

脊髄損傷の場合は四肢麻痺や対麻痺などの後遺症が残ることが多いため、療養や休業の補償だけでなく、傷病・障害・介護の補償も受けられる可能性が高いです。

ただし、これらの補償にはそれぞれに支給要件が定められています。給付を受けるには、前述の労災要件に加え、各補償の要件を満たす必要があるので注意しましょう。

脊髄損傷の障害等級について

脊髄損傷によって障害(補償)給付を受ける場合に、当てはまる可能性がある障害等級は、次のとおりです。

等級傷病の状態
第1級
労災保険の障害等級(1級)」
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を
要するもの
第2級
労災保険の障害等級(2級)
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を
要するもの
第3級
労災保険の障害等級(3級)
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に
服することができないもの
第5級
労災保険の障害等級(5級)
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な
労務以外の労務に服することができないもの
第7級
労災保険の障害等級(7級)
神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な
労務以外の労務に服することができないもの
第9級
労災保険の障害等級(9級)
神経系統の機能または精神に障害を残し、
服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
第12級
労災保険の障害等級(12級)
局部にがん固な神経症状を残すもの
第14級
労災保険の障害等級(14級)」
局部に神経症状を残すもの

このように、脊髄損傷は高等度から中等度、低等度まで、複数の等級に該当する可能性があります。障害(補償)給付は、等級によって給付金額が変わり、等級が高くなるほどその金額は高くなるため、適切な等級申請・認定が非常に重要です。

また、給付形態は年金型と一時金型の2種類。第1級〜第7級までは年金型、第8級〜第14級までは一時金型で給付が行われます。

脊髄損傷による合併症の取り扱いについて

脊髄損傷では合併症を発症することもありますが、この合併症も労災保険の補償対象となる可能性があります

労災保険の補償対象となるのは、次の25種類の合併症です。

労災保険給付の対象となる合併症

  • 褥瘡(じょくそう)
  • 皮膚がん(褥瘡がん)
  • 起立性低血圧
  • 運動障害域の神経病性関節症
  • 運動障害域の痙縮亢進(こうしん)
  • 麻痺域疼痛(痛覚脱失性疼痛)
  • 自律神経過反射
  • 体温調節障害
  • 肩手症候群
  • 関節周囲異所性骨化(麻痺域)
  • 関節拘縮(麻痺域)
  • 脊柱の変形
  • 外傷性脊髄空洞症
  • 人工呼吸中の気管内チューブによる気管粘膜の潰瘍または声門、気管狭窄(きょうさく)
  • 肺感染症
  • 無気肺
  • 尿路、性器感染症(ぼうこう炎、尿道炎、尿管炎、前立腺炎、副睾丸炎)
  • 尿路結石症
  • 腎盂(じんう)腎炎、菌血症
  • 膿腎症
  • 水腎症、水尿管症
  • 腎不全
  • 膀胱がん
  • 感染症(骨髄炎、化膿(かのう)性関節炎、敗血症)
  • 血栓性静脈炎

上記に加え、その他の合併症についても、例外的に補償対象となる可能性はあります。

ただし、それは労災による脊髄損傷との因果関係が明確であるものに限られます

脊髄損傷の労災申請から等級認定までの流れ

労災で脊髄損傷の怪我を負った場合の、労災申請から障害等級認定までの流れは、次のとおりです。

  1. 労災保険を適用する
  2. 症状固定まで治療を継続する
  3. 後遺障害等級認定を申請する
  4. 認定結果が通知される

各手順について詳しくみていきましょう。

①労災保険を適用する

まずは、療養(補償)給付また休業する場合には休業(補償)給付の申請手続きを行いましょう。申請手続きを行い、労基署が労災を認定すれば、各給付金が支給されます。

この申請手続きは、被災労働者に代わって会社が行うのが慣例となっています。しかし、会社が手続きを進めてくれない場合には、被災労働者自身が手続きを進めて構いません

申請書類は給付金ごとに異なるので、間違えないよう気をつけましょう。

②症状固定まで治療を継続する

ご紹介してきたとおり、脊髄損傷は後遺症が残る可能性が高いです。労災による後遺症は、障害(補償)給付の対象となります。

この給付を受けるには、症状固定(治癒)と医師が判断するのを待たなければなりません。症状固定までは、医師の指示に従って必ず治療を続けるようにしましょう。

また、療養を始めてから1年6ヶ月経っても症状固定にならない場合には、傷病(補償)年金の給付対象となるかどうかも確認しなければなりません。その時の状態が規定の傷病等級に当てはまる場合、傷病(補償)年金が支給され、休業(補償)給付は打ち切りとなります。

③後遺障害等級認定を申請する

症状固定時に身体に一定の障害が残っていた場合には、労基署に障害(補償)給付および後遺障害等級認定の申請を行わなければなりません。

等級によって、この給付の内容は大きく変わります。等級認定には医師の診断書・意見書が大きく影響すると考えられるため、症状に合った正しい内容で書類を作成してもらえるよう、日頃から医師とは信頼関係を築いておきましょう。

また、調査官との面談内容も等級認定に影響するので、被災労働者は自身の症状を正しく説明できるようにしておきましょう。

④認定結果が通知される

労基署の調査が行われた後には、障害等級の認定・不認定通知が送られてきます。
もし、この通知の内容に不服があるようであれば、被災労働者は審査請求を申し立てることができます。

会社に対する損害賠償請求を検討するなら弁護士に相談!

労災に遭った労働者にとって、労災保険は重要な補償です。

しかし、労災保険では慰謝料は補償されません慰謝料の補償を受けるためには、労災の原因をつくった会社や第三者に対し、損害賠償請求を行う必要があります。

損害賠償請求は、会社や第三者に労災発生に関する法的責任が認められる場合のみ行えます。後遺障害に対する慰謝料の場合、その相場は次のとおりです。

【後遺障害の慰謝料の相場】

後遺障害等級慰謝料相場後遺障害等級慰謝料相場
1級2,800万円8級830万円
2級2,370万円9級690万円
3級1,990万円10級550万円
4級1,670万円11級420万円
5級1,400万円12級290万円
6級1,180万円13級180万円
7級1,000万円14級110万円

上記はあくまで相場ですが、後遺障害に対しより手厚い補償を受けるためには、この請求手続きも検討すべきでしょう。

ただし、損害賠償請求には、法律の絡む専門的な手続きが必要です。相手との交渉では、交渉の技術もその結果を左右するでしょう。

そこで検討したいのが、弁護士への依頼です。

弁護士に依頼すれば、複雑な損害賠償請求の手続きを代行してもらうことが可能です。労災問題を取り扱った実績が多い弁護士であれば、より有利な条件で相手と合意することも可能でしょう。

労災による後遺障害の損害賠償請求には、弁護士の手を借りることをおすすめします。

まとめ

脊髄損傷を負った場合、症状固定後も身体に障害が残る可能性は高いです。労災による脊髄損傷の場合であれば、療養や休業に対する補償はもちろん、後遺障害に対する補償も、労災保険からしっかり受け取るようにしましょう。

ただし、後遺障害に対する補償を受けるためには、所定の手続きを行い、障害等級認定を受ける必要があります。等級によって補償額は大きく変わるため、実際の症状が過小評価されないよう気をつけましょう。

また、労災による後遺障害については、会社や第三者に対する損害賠償請求も検討しましょう。損害賠償請求では、労災保険にはない慰謝料も受け取ることができます。

その手続きはやや専門的であるため、まずは弁護士に相談すると良いでしょう。