玉掛け作業中の労働災害と事例に関して

玉掛作業とは 吊り具を用いて行う荷掛けおよび荷外しの作業を言います。
クレーン等を用いて荷役運搬作業を行う場合には、吊り荷をクレーン等のフックで吊るためのワイヤーロープ等の吊り具の準備、荷の吊り上げ、吊り荷の移動、吊り荷を所定の場所に設置、片付けまでの一連の作業、並びにクレーンへの合図動作、すべてを含めて玉掛作業といいます。

玉掛作業は非常に危険で注意を要する作業であるため、玉掛作業は有資格者が行わなければなりません。事業主は、クレーン等を運転する作業と同時に玉掛け作業を行う際、必ずクレーン運転士等の資格に加えて玉掛け資格を有する者に作業させなければなりません。
運転席が遠く離れているタワークレーンなど、運転士と玉掛け作業の場所が離れている場合、同一人物が両方の作業を行うことは現実的でないため、運転士と玉掛け作業をする者、両名の資格が必要となります。

玉掛け基本動作

玉掛け作業は、準備と作業の中で、さまざまなチェックポイントがあります。確認を怠ると事故に直結する事柄ばかりですので、注意が必要です。

(1)準備

吊り荷、場所の確認

移動先の場所と置き方を事前に確認し、最適な吊り方を決めます。そして、吊り荷の重心位置を目測してクレーンのフックを重心上に移動させます。

玉掛け用具の確認

吊り荷の形状と重量を確認し、適切な長さ、太さの吊り具を準備します。吊り具は使用前後に損傷点検しなければなりません。

(2)作業

ワイヤー掛け

アイ(ワイヤーの目)掛け作業が片側一箇所で作業出来るようワイヤーを吊り荷に掛けておきます。
その際、万が一に備えて退避できるように、両足を揃えて作業してはいけません。

クレーン移動

クレーンを呼び、吊り荷の重心位置付近で巻き下げアイ掛けのし易い高さで止めます。

センター合わせ

吊り荷の前後・左右の各々の方向からフック位置を確認し、重心の上に移動させます。

アイ掛け

フックに付いているワイヤー外れ防止の留め金が正常であることを確認します。アイ掛け後にワイヤーを扱う場合は 手鉤を使用して直接手で触れてはいけません。フックに掛けたワイヤーはフックの上で重ならないようにします。

荷掛け

フック上と吊り荷に掛けたワイヤーが重ならないことを確認し、当て物(ヤワラ)の入れ易い高さ(ワイヤーが少し弛む程度)まで巻き上げます。当て物が吊り荷の角部に確実に当たるように入れます。
巻き上げ合図は、片腕を挙げて手を振り、停止時は手のひらを広げて停止します。

地切り(巻き上げ開始)前

吊り荷が浮き上がる直前(ワイヤーが張った状態)で停止し 玉掛状態が正常であることを確認します。吊り上げる前に 万が一の事態(吊り荷の振れ、落下など)に備え周囲の安全を確認します。
確認ができれば、退避します。退避はクレーン走行(横行)方向の45度方向で2m以上離れなければなりません。

地切り、移動

地切りしたら約10cm高さで一旦停止し、吊り荷の安定(振れや傾きがないか)を確認します。人の頭に吊り荷が当たらない2m以上の高さまで巻き上げ、進行方向の安全を確認してから移動します。

着床(巻き下げ、着地)

荷降ろし場所にクレーンを誘導し、巻き下げて吊り荷の着地前約10cmの高さで一旦停止します。クレーンをインチング操作で着地位置に合わせ、吊り荷の方向を手鉤で修正します。その際、吊り荷に直接触れたり吊り荷の下に身体を入れてはいけません。着地後ワイヤーが張った状態で一旦停止し、周囲の安全を確認してから巻き下げます。ワイヤーが少し緩む高さで停止し、吊り荷の安定を確認してから、吊り具の外し易い高さまで巻き下げます。
巻き下げ合図は、腕を水平に伸ばして大きく下方向へ振ります。

アイ外し

アイを外し、フックを2m以上巻き上げたところでクレーンへ完了の連絡(敬礼)を送ります。

片付け

最初に当て物を片付けてからワイヤーを抜き取ります。その後吊り具の使用後点検を行い、異常がある場合は処置(連絡・廃棄)する。

以上が玉掛けの一連の作業です。この作業の中で工程を飛ばしたり確認不足であったことにより、
同僚などを怪我させた場合には、怪我をさせた労働者に過失責任を問われるとともに、事業主も責任を負います。

また、手順を省く事が慣例化していたり、人員の配置、作業用具に不備があった場合も当然に、事業主は責任を負います。

 

玉掛けに関する労災事故

玉掛け作業に関しては、上記のように様々な過程を経て行われるため、労災事故も非常に多く発生します。以下、具体的な労災事故をご紹介します。

(1)無資格者による玉掛け作業中の事故

被災労働者は、玉掛けに関して資格がないにもかかわらず、事業者により玉掛け作業を行うよう指示されていた。同僚にユンボで木材を運んでもらうため、ワイヤーで玉掛けしていたところ、安全の確認合図ができておらず、木材と薬指を一緒に吊られてしまい、第一関節から切断した。

この場合、まずは、指の治療に要した費用(治療費や通院費)に加え、労災事故により会社を休まざるを得なかったため休業補償が給付されます。休業補償の内容は、おおよそ平均賃金の60%が、休業日数分支給されます。
次に、 薬指の第一関節切断による後遺障害により、労災等級12級と認定され、給付基礎日額の156日分が一時金として支給されます。
さらに、玉掛け作業を行うのは有資格者でなければなないにもかかわらず、無資格者に行わせた事業者には過失があるため使用者責任(民法715条)に基づく損害賠償請求をすることができます。

(2)退避確認懈怠による事故

被災者は、建物の解体作業現場で、建物の壁を自らが玉掛けし、同僚がバックホーで移動させようとしていた。しかし、同僚は、被災者が安全な場所に退避したことを確認する義務を怠りバックホーを作動させたため、玉掛けされた壁が被災者に衝突した。衝突の際、被災者がかざした手に当たり、人差し指を縫うけがを負った。

この場合、まずは(1)と同様、指の治療に要した費用(治療費や通院費)が支給されます。本件では被災者は4日以上続けて会社を休んでいないため、休業補償給付は支給されません。
次に、 指の可動域が制限されたり、神経痛が残る等した場合には、労災等級14級と認定され、給付基礎日額の56日分が一時金として支給されます。
さらに、同僚の過失により被災したわけですから、その同僚の雇用主である事業主に対して使用者責任(民法715条)を請求できます。理論上は同僚に対する不法行為責任(民法709条)も追及できるのですが、損害額が大きくなるケースが多く、費用面で会社に請求する方が回収の可能性が高いため、同僚に対する請求はあまり現実的ではありません。

最後に

玉掛け作業は、そもそも二人以上で行うケースが多いため、玉掛け中の事故の場合、同僚あるいは会社、もしくは両方に過失があるケースが多くあります。このような、使用者に対して不法行為責任を問える場合、被災労働者が得られる金額は労災申請のみで得られる金額に比べて大幅にアップすることが多いです。それだけに会社側も争ってくることが予想され、訴訟になるケースも多いでしょう。法律事務所テオリアでは、労災に遭われた際、会社側に対し損害賠償請求の訴訟を提起するという手段も依頼者様とともに検討します。
また、ご相談の段階で申請書の記載内容、今後の見通しや、請求できる見込みの金額についてできる限り詳細にアドバイス致します。場合によっては、労働基準監督署に提出する申請書に、弁護士がより詳細な報告書を添付し、事件について詳細に記載、分析して労働基準監督署に伝え、労災認定を受けやすくすることも可能です。
当事務所へのご相談は無料ですので、労災事故でお悩みの方、是非お気軽にご相談ください。

監修弁護士

弁護士:松村 龍一 第二東京弁護士会所属

コメント:

職場・現場で怪我・病気をされた場合、それは労働災害です。
できるだけ早いタイミングで当事務所にご相談ください。
まずは、相談料は無料ですので、お気軽にご相談ください