労災事故の慰謝料の相場額は?労災の損害賠償金を解説

労災事故に遭った労働者は、療養(補償)給付や休業(補償)給付など、労災保険からの補償を受け取れます。

さらに、労災事故の発生に関して会社に落ち度があった場合には、会社に対して損害賠償請求を行うことも可能です。

損害賠償請求では、労災保険では補償されない慰謝料を請求することができます。これにより、補償がより手厚くなれば、被災労働者の生活は安定するでしょう。

では、この損害賠償請求では、どれくらいの慰謝料を請求できるのでしょうか。

今回は労災の損害賠償請求における慰謝料の相場について詳しく解説します。

 

労災の損害賠償請求における慰謝料とは

業務に起因して発生した怪我や病気は、「労災」として、労災保険の補償対象になります。
労災保険では、療養に必要な医療費を補償する「療養(補償)給付」や4日以上の休業に対する「休業(補償)給付」など、傷病の状態や条件に応じた補償が複数整備されています。
しかし、労災保険には慰謝料を補償する制度はありません。

慰謝料とは、「精神的な損害に対する補償」のこと。
損害賠償請求は、労災保険では補償されない慰謝料を受け取るために有効な手段です。

労災の損害賠償請求は、主に会社に対して行います。ただし、それができるのは「労災の発生にあたって会社に落ち度があったという法的根拠がある場合」に限られます。

損害賠償請求の法的根拠とは

法律では、会社に対し次のような義務を定めています。

・安全配慮義務・・・労働者が安全に働けるよう環境を整備する義務
・使用者責任・・・業務中に従業員が他人へ損害を与えた場合には、会社もその賠償責任を負うという決まり
・工作物責任・・・設置した工作物の瑕疵により他人に損害が生じた場合には、工作物の所有者が賠償責任を負うという決まり など

このような義務を会社が果たさなかったことにより労災が発生した場合、被災労働者は「不法行為」や「債務不履行」を法的根拠として、会社に損害賠償請求を行うことができます。

逆に、法的根拠がない場合、労災に遭っても会社に対し損害賠償を請求することはできません。

慰謝料の種類

損害賠償として請求できる慰謝料は、次の3種類に分類されます。

【入通院慰謝料】
労災による傷病の療養のために行う入通院の苦痛に対する慰謝料

【後遺障害慰謝料】
被災労働者に後遺症が残った場合の苦痛に対する慰謝料(※障害の程度が既定の障害等級に当てはまる必要がある)

【死亡慰謝料】
労災で労働者が死亡した場合に支払われる慰謝料(※受取人は相続人である遺族)

慰謝料は、複数の種類を受け取ることも可能です。例えば、労災による傷病で入通院を行い、その後後遺障害が残った時には、「入通院慰謝料」と「後遺障害慰謝料」の両方を受け取ることができます。

労災保険と損害賠償の併用

労災での損害賠償請求について気をつけておきたいのが、労災保険と損害賠償との併用について。
結論から述べると、労災保険による補償を受けながら、会社から損害賠償を受けることは可能です。

しかし、同じ内容の補償を二重取りすることはできません。
例えば、労災保険から療養(補償)給付を受けているのに損害賠償で会社から治療費を受け取ることはできませんし、休業(補償)給付を受けているのに会社から休業損害を受け取ることはできません。

慰謝料に関して言えば、前述の通り、労災保険の補償対象外。よって、二重取りの心配なく受け取ることができます。

このように、補償の二重取りは禁止されています。よって、労災保険でカバーされない補償を損害賠償で補うパターンが一般的になっています。

入通院慰謝料の相場

入通院慰謝料については、その基準が過去の裁判から確立されています。おおよその金額は、この基準をもとに、傷病の程度や入通院の期間によって決まります。

例えば、1ヶ月入院して1年通院した場合の相場は194万円、3ヶ月入院して半年通院した場合の相場は213万円、1年入院して1年3ヶ月通院した場合の相場は343万円になります。
このように、入院期間および通院期間が長くなるほど慰謝料の相場は高くなります。

ただし、実際に支払われる慰謝料の額は基準通りではなく、ケースによって異なります。労災の発生状況や症状によって、慰謝料額が増減するためです。

後遺障害慰謝料の相場

後遺障害慰謝料の相場は、既定の障害等級をもとに、次のように決められています。

該当する障害等級 慰謝料相場額
1 2,800万円
2 2,370万円
3 1,990万円
4 1,670万円
5 1,400万円
6 1,180万円
7 1,000万円
8 830万円
9 690万円
10 550万円
11 420万円
12 290万円
13 180万円
14 110万円

例えば、両耳の聴覚を失った場合には障害等級4級に該当し、その場合の慰謝料の相場は1,670万円になります。また、片目の視力が0.6以下になった場合には障害等級13級に該当し、慰謝料相場は180万円になります。
このように、障害の度合いが重くなるほど障害等級は上がり、それに対する慰謝料額も高くなります。

死亡慰謝料の相場

死亡慰謝料は、亡くなった被災労働者の遺族が請求を行います。その相場は、被災労働者の立場によって次のように異なります。

 被災労働者が一家の支柱である場合・・・2,800万円
 被災労働者が母親または配偶者である場合・・・2,500万円
 被災労働者がその他の立場である場合・・・2,000〜2,500万円

上記は基準額であり、具体的な額はケースによって異なります。また、被災労働者の近親者に対する慰謝料が認められることもあります。

慰謝料以外に請求できる損害賠償金

損害賠償で請求できるのは、慰謝料だけではありません。
他にも、次のような項目で相手方に請求を行うことが可能です。

 傷病治療費
 入通院費用(交通費や付添費用、その他雑費)
 休業損害
 逸失利益(労災に遭わなかった場合に得ていたであろう利益)
 介護費用
 葬儀費用
 物損費用 など

ただし、先ほどご紹介した通り、損害賠償請求と労災保険で同じ内容の補償を二重取りすることはできないので気をつけましょう。

損害賠償請求の根拠や項目については、「労災における損害賠償請求とは?どのような種類の損害賠償が請求できるか」でも詳しくご紹介しています。

休業損害と休業(補償)給付

損害賠償請求の休業損害では、給付基礎日額を基準に満額の補償を受けられます。
一方の労災保険による休業(補償)給付では、補償されるのは給付基礎日額の60%のみ。ただしプラスアルファで特別支給金20%が支給されます。

二重取りはできないため、この場合もっとも補償が手厚いのは、損害賠償請求の休業損害です。
しかし、労災保険の休業(補償)給付の請求手続きも必ず行うようにしてください。なぜなら、特別支給金の20%は二重取りの対象にならないためです。

損害賠償で休業損害を請求し、労災保険の休業(補償)給付の請求手続きも行った場合、「給付基礎日額の満額+20%」を受け取ることが可能になります。

まとめ

労災に遭った時には、まず労災保険の補償請求を行うのが一般的です。しかし、これだけでは補償内容は十分とは言えません。
労災の発生にあたって会社に落ち度がある場合には、慰謝料をはじめとした十分な補償を受けるためにも、会社に対する損害賠償請求を検討しましょう

ただし、損害賠償請求の手続きは専門的で複雑。一般の方が傷病を負いながら対応するのは困難です。
負担なくスムーズにその手続きを進めるには、弁護士の手を借りるのがおすすめ。まずは無料相談などを活用し、労災やその損害賠償手続きについて弁護士に相談するようにしましょう。