労災で怪我や病気を負い、その後体に障害が残ってしまうケースがあります。これを後遺障害と言いますが、労災保険では後遺障害に対する補償として、障害(補償)給付という給付制度が設定されています。
今回は、労災による後遺障害および障害(補償)給付について、認定までの流れや受け取れる給付金額、慰謝料の相場など、詳しく解説していきます。
労災による後遺障害認定までの流れ
まずは、労災による後遺障害認定までの流れについてご説明します。
労災による後遺障害認定までには、以下の4つのステップがあります。
①症状固定
②給付金の請求手続き
③労働基準監督署による調査
④後遺障害の認定判断・通知
順に見ていきましょう。
①症状固定
症状固定とは、症状が完全に治った状態ではなく、「傷病の状態が安定し、一般的な医療行為を行っても症状の改善が期待できなくなった状態」のことを指します。労災における「治ゆ」と同じ意味だと考えてください。
労災による後遺障害の認定を受けるためには、まず症状固定の診断を医師から受けなければなりません。
症状固定の診断を受けた段階での後遺障害の程度によって、その後認定される障害等級が決定されることになります。
また、症状固定となると、その後は療養(補償)給付や休業(補償)給付を受け取ることはできないので注意してください。
②給付金の請求手続き
症状固定となったら、障害(補償)給付の請求手続きを始めます。
請求手続きに必要な書類は、以下の通りです。
◆ 障害(補償)給付請求の必要書類
・障害補償給付支給請求書様式第10号(業務災害の場合)
・障害給付支給請求書様式第16号の7(通勤災害の場合)
・労働者災害補償保険診断書
・検査結果を示す資料(カルテやレントゲン・MRI・CTの画像等)
・通勤災害に関する事項(通勤災害の場合のみ)
※請求書や診断書は厚生労働省のホームページからダウンロード可能
このうち、障害(補償)給付支給請求書については、事業主に証明欄を記入してもらう必要があるので、気をつけてください。
また、労働者災害補償保険診断書は、担当の医師、または歯科医師に記入してもらう必要があります。診断書は、後遺障害の認定に重要な書類です。必要に応じてカルテやレントゲン写真などの資料も用意してもらうようにしましょう。
この時発生した診断書費用については、療養(補償)給付の申請によって請求することが可能です。
③労働基準監督署による調査
必要書類が揃ったら、管轄の労働基準監督署へ書類を提出します。
労働基準監督署は受け取った書類をもとに労災事故や後遺障害について調査を行います。被災労働者本人との面談も行われるので、伝えたいことをまとめておくようにしましょう。
④後遺障害の認定判断・通知
調査の結果をもとに、労働基準監督署が後遺障害の認定を判断し、被災労働者のもとに支給決定通知書もしくは不支給決定通知書が届きます。この通知書にて、被災労働者は認定された等級を把握することになりますが、この決定に納得できない場合審査請求を行うことが可能です。
後遺障害が認定され、障害(補償)給付の支給が決定された場合は、その後指定口座に給付金が振り込まれます。
労災による後遺障害で支給される金額
労災による後遺障害で、障害(補償)給付として支給される金額は、認定された障害等級によって異なります。表で確認しましょう。
障害等級第1級〜第7級の支給金額
障害等級第1級〜第7級の場合、支給される給付金の種類は以下の3種です。
・障害(補償)給付
・障害特別支給金
・障害特別年金
等級ごとの支給額は下記のようになります。
等級 | 障害(補償)給付
(年金) |
障害特別支給金
(一時金) |
障害特別年金
(年金) |
第1級 | 給付基礎日額の313日分 | 342万円 | 算定基礎日額の313日分 |
第2級 | 給付基礎日額の277日分 | 320万円 | 算定基礎日額の277日分 |
第3級 | 給付基礎日額の245日分 | 300万円 | 算定基礎日額の245日分 |
第4級 | 給付基礎日額の213日分 | 264万円 | 算定基礎日額の213日分 |
第5級 | 給付基礎日額の184日分 | 225万円 | 算定基礎日額の184日分 |
第6級 | 給付基礎日額の156日分 | 192万円 | 算定基礎日額の156日分 |
第7級 | 給付基礎日額の131日分 | 159万円 | 算定基礎日額の131日分 |
障害等級第8級〜第14級の支給金額
障害等級第8級〜第14級の場合、支給される給付金の種類は以下の3種です。
・障害(補償)給付
・障害特別支給金
・障害特別一時金
等級ごとの支給額は下記のようになります。
等級 | 障害(補償)給付
(一時金) |
障害特別支給金
(一時金) |
障害特別一時金
(年金) |
第8級 | 給付基礎日額の503日分 | 65万円 | 算定基礎日額の503日分 |
第9級 | 給付基礎日額の391日分 | 50万円 | 算定基礎日額の391日分 |
第10級 | 給付基礎日額の302日分 | 39万円 | 算定基礎日額の302日分 |
第11級 | 給付基礎日額の223日分 | 29万円 | 算定基礎日額の223日分 |
第12級 | 給付基礎日額の156日分 | 20万円 | 算定基礎日額の156日分 |
第13級 | 給付基礎日額の101日分 | 14万円 | 算定基礎日額の101日分 |
第14級 | 給付基礎日額の56日分 | 8万円 | 算定基礎日額の56日分 |
給付基礎日額、算定基礎日額とは?
上記表から具体的な支給金額を算出するためには、給付基礎日額および算定基礎日額の意味を押さえておく必要があります。
◆給付基礎日額
事故が発生した日もしくは医師からの病気の診断が確定した日の直前3ヶ月の間に、その被災労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の日数で割った額のこと(平均賃金)。ただし、ボーナスや臨時で支払われる賃金は除きます。
◆算定基礎日額
事故が発生した日もしくは医師からの病気の診断が確定した日以前1年の間に、その被災労働者に支払われた特別給与(ボーナス等)を365で割った額のこと。ただし、特別給与にあたるのは3ヶ月以上の期間ごとに支払われる賃金であり、臨時で支払われる賃金は除きます。
労災の後遺障害における給付金額は、個人の給付基礎日額や算定基礎日額によるため、一人一人具体的な額は異なります。
労災による後遺障害で慰謝料を請求するには
後遺障害の発端となった労災事故の責任が会社や第三者にある場合、被災労働者は相手に慰謝料を請求することもできます。ただし、その場合は「安全配慮義務違反」「使用者責任」「工作物責任」「第三者行為災害」等といった法的根拠が必要です。
慰謝料は大きく以下の3種に分けられます。
①入通院慰謝料
②後遺障害慰謝料
③死亡慰謝料
このうち、後遺障害を負ったことに対する慰謝料にあたるのが、②の「後遺障害慰謝料」です。
前述の通り、後遺障害には第1級〜第14級まで14の等級が設定されていますが、後遺障害慰謝料については、この等級ごとに相場額が下表のように定められています。
◆後遺障害慰謝料の等級ごとの相場額
第1級 | 2,800万円 | 第8級 | 830万円 |
第2級 | 2,370万円 | 第9級 | 690万円 |
第3級 | 1,990万円 | 第10級 | 550万円 |
第4級 | 1,670万円 | 第11級 | 420万円 |
第5級 | 1,400万円 | 第12級 | 290万円 |
第6級 | 1,180万円 | 第13級 | 180万円 |
第7級 | 1,000万円 | 第14級 | 110万円 |
このように、後遺障害慰謝料の相場は、最も後遺障害が重い第1級で2,800万円、第14級で110万円となっています。
これらはあくまで相場ですが、慰謝料請求時の参考にお役立てください。
まとめ
障害(補償)給付は、治ゆ後に後遺障害が残った被災労働者の生活を支える重要な給付金です。時効は症状固定から5年ですが、早めに手続きを行い、しっかりと補償を受けるようにしてください。
とはいえ、労災保険からは、後遺障害を負った精神的苦痛に対する補償は行われません。傷病の原因が会社や第三者にある場合には、十分な補償を受けるためにも、後遺障害慰謝料の請求を検討しましょう。
この慰謝料請求には専門知識や交渉力が必要になるため、まずは一度弁護士にご相談ください。