労災でしびれが残った場合の後遺障害等級と補償金額を解説

労災事故による傷病には、さまざまなものがあります。治療によって完治するものもあれば、治療を続けても完治せず、体にしびれが残ってしまうようなこともあるでしょう。

このような体のしびれは、労災保険の障害補償給付の対象になる可能性があります。その給付内容は、既存の後遺障害等級に実際の症状を照らし合わせることで決定されます。

では、労災事故で体にしびれが残った場合、その障害等級や給付金額はどれくらいになるのでしょうか。

今回は、後遺症としてのしびれについて、労災保険上の取り扱いを解説します。

“しびれ”が労災認定される条件

労災事故で残った手や足のしびれは、労災認定の対象となる可能性があります。後遺障害としての労災認定を受けられれば、被災労働者は障害補償給付を受け取ることができます。

ただし、手足のしびれはどんな場合でも労災認定されるわけではありません。認定を受けるためには、次の3つの条件を満たす必要があります。

 労災事故および業務としびれに因果関係があること

 “しびれが継続していること

 “しびれがあることを医学的に証明できること

各条件について詳しく見ていきましょう。

① 業務および労災事故と“しびれ”に因果関係があること

そもそも労災とは、「業務に起因した傷病」のこと。労災認定も、「業務に起因した傷病」に対して行われます。

そのため、しびれで労災認定を受けるには、そのしびれと業務(または労災事故)との間に因果関係が認められなければなりせん。

② “しびれ”が継続していること

しびれが継続しておらず、時々症状が出たり後からしびれが発生したりした場合、労災不認定となる可能性は高くなります。一貫して症状が継続していない場合、私病との区別がつきにくく、また業務との因果関係も証明しにくくなるためです。

一方、労災事故に遭ってから治ゆ(症状固定)までしびれが続いている場合であれば、労災は認定されやすくなるでしょう。

③ “しびれ”があることを医学的に証明・説明できること

しびれで労災認定を受けるには、そのしびれを医学的に証明または説明できなければなりません。そのためには、画像検査や神経学テストの結果が重要になります。

このような検査で医学的にしびれがあることを証明・説明できない場合、労災認定は降りにくくなります。

労災事故によるしびれの後遺障害等級

労災事故による後遺症のしびれが労災認定を受けた場合、その被災労働者は障害補償給付を受け取ることができます。

この給付は、該当する後遺障害等級によって給付内容が異なります。つまり、自身のしびれの症状がどの等級に当てはまるかによって、受け取れる補償の額が決まるのです。

後遺障害等級は第1級〜第14級まであり、それぞれに具体的な後遺障害の内容が定められています。後遺障害の程度は第1級がもっとも重く、障害補償給付の支給額ももっとも高額になります。

しびれの等級は第12級または第14級

一般的な手足のしびれは、規定の後遺障害等級では次の等級に当てはまると考えられます。

  • 12級 局部にがん固な神経症状を残すもの
  • 14級 局部に神経症状を残すもの

第12級と第14級との違いは、神経症状が「がん固」かどうかという点。「がん固」を具体的に定義することは難しいですが、痛みを伴う強いしびれを医学的に証明できるような場合には、第12級が適用される可能性が高くなります。また、第14級で認定を受ける場合にも、医学的な説明は必要です。

第12級と第14級では給付金額が異なります。そのため、しびれの症状が重い場合には、第12級での認定を目指す必要があります。

しびれの後遺障害に対する労災保険の給付金額

先述の通り、後遺障害に対して支給される障害補償給付の金額は、後遺障害等級によって異なります。しびれの場合、等級は第12級と第14級が考えられますが、それぞれの等級の給付金額は次のようになります。

【第12級】

給付基礎日額の156日分(障害補償等給付)+20万円(障害特別支給金)+算定基礎日額の156日分(障害特別一時金)

【第14級】

給付基礎日額の56日分+8万円(障害特別支給金)+算定基礎日額の56日分(障害特別一時金)

給付基礎日額とは「労災事故の直前3ヶ月の間に支払われた賃金総額をその期間の暦日数で割った金額」を指します。この賃金総額には、ボーマスや臨時の賃金は含まれないので注意しましょう。

また、算定基礎日額とは労災事故の前1年間の間に支払われた特別給与(ボーナス等)の総額を365で割った金額」を指します。ボーナス等の特別給与がない場合、障害特別一時金の給付はありません。

障害補償給付では、第1級〜第7級までが年金型、第8級〜第14級までが一時金型となっています。よって、しびれが該当すると予想される第12級・第14級については、どちらも給付が一度だけの一時金型となります。

適切な後遺障害等級認定を受けるためのポイント

適切な後遺障害等級認定を受けるためには、次の3つのポイントが重要になります。

治ゆ(症状固定)まで治療を続ける

業務および労災事故と後遺症との関連性を証明できるようにしておく

症状に合った内容の診断書を書いてもらう

各ポイントについて詳しくみていきましょう。

①治ゆ(症状固定)まで治療を続ける

適切な後遺障害等級認定を受けるためには、治ゆ(症状固定)まできちんと病院に通って治療を受ける必要があります。勝手に治療回数を減らしたり通院を辞めてしまったりすると、症状が軽いと判断されてしまう可能性もあるので気をつけましょう。

②業務および労災事故と後遺症との関連性を証明できるようにしておく

等級認定・労災認定を受けるには、業務(労災事故)と後遺症との因果関係を医学的に証明・説明しなければなりません。各種検査を受ける、医師からの詳しい説明も受けるなど、そのために必要な準備は早い段階から進めておくことをおすすめします。

③症状に合った内容の診断書を書いてもらう

後遺障害の等級認定・労災認定にあたっては、診断書の提出が必要です。診断書の作成は医師に依頼しますが、適正な内容で作成してもらえるよう、自身の症状はなるべく詳しく伝えるようにしてください。

また、認定・不認定の決定や認定された等級に不服がある場合には、審査請求や再審査請求の申立ても検討すると良いでしょう。

適切な等級認定を受けるためのポイントについては、「労災の後遺障害を申請するには?適切な等級認定を受けるためのポイント等を解説」でもご紹介しています。

労災のしびれで損害賠償請求ができるケースとは

ここまでご紹介してきた通り、労災事故で手足に残ったしびれは、労災保険の補償対象となる可能性があります。

しかし、労災保険では後遺障害に対する慰謝料は補償されません。そのため、補償が十分でないと感じる方もいるでしょう。

後遺障害に対する慰謝料は、会社や第三者に対する損害賠償請求によって受け取れる可能性があります。その相場は、第12級で290万円、第14級で110万円ほどです。

ただし、これは会社や第三者に法的責任が認められる場合のみ。この法的責任としては、「安全配慮義務違反」や「使用者責任」、「第三者行為災害」などが挙げられます。

法的責任が認められない場合、損害賠償請求はできないので注意しましょう。

労災の損害賠償請求については、「労災で裁判をするには|会社への損害賠償請求と労災認定に対する不服申し立て」でご説明しています。

まとめ

労災事故による後遺症のしびれで労災認定を受けるには、症状があることや業務との因果関係を医学的に証明・説明できるかどうかが大きなポイントになります。主観的なしびれは労災認定を受けにくいので、検査や医師の説明から、なるべく医学的な証拠を用意しておくようにしましょう。

また、労災認定・不認定の決定に不服がある場合には、審査・再審査請求を行ったり、取消訴訟を起こしたりすることも可能です。

これらの手続きは専門的な部分多いため、まずは労災問題を手掛ける弁護士に相談することをおすすめします。