労災により休業を余儀なくされた労働者は、休業補償給付を受けることができます。
この給付金は、労災保険から平均賃金の60%を基本として支給されます。ただし、最初の3日間は給付の対象外(待機期間)であるため、注意が必要です。
受給額を正確に把握するためには、給付金の計算式だけでなく、待機期間のカウント方法についても理解しておくことが重要です。
そこで今回は、労災保険による休業補償給付について、具体的な計算方法や待機期間の考え方、さらに検討すべき損害賠償手続きについても、わかりやすく解説します。
労災保険給付の支給要件
業務によって、また通勤中に労働者が負った傷病または死亡を、「労働災害(労災)」と呼びます。労災に該当する傷病・死亡は、「労災保険(労働者災害補償保険)」による給付金の支給対象となります。
ただし、保険給付には、支給要件が定められています。この要件について、労災の種類ごとに確認していきましょう。
業務災害の場合
労災のうち、業務上の原因によるものを、「業務災害」と呼びます。業務災害における労災保険の支給要件は、以下のとおりです。
- 業務起因性(業務がケガや病気の原因であること)が認められること
- 業務遂行性(労働者が会社の支配下で働いていたこと)が認められること
労災が認定されるためには、上記の2点が両方認められなければなりません。例えば、労働者が業務中の社内で私的行為によってケガを負った場合であれば、業務遂行性は認められても、業務起因性が認められないため、労災は認定されないと考えられます。
労災と認定されない場合は、労災保険の給付金は支給されません。
通勤災害の場合
労災のうち、通勤中に起きたケガや事故のことを、「通勤災害」といいます。
通勤災害について労災保険の給付を受けるためには、法律で定められた「通勤」に該当する移動中の事故である必要があります。
ここでいう「通勤」とは、労働者が仕事に行くために、合理的な経路・方法で行う以下の移動を指します。
ただし、業務の一環として行う移動(例:出張など)は対象外です。
- 自宅と勤務先との往復
- 厚生労働省令で定められた就業の場所から別の就業場所への移動
- 上記の往復に先行・後続する住居間の移動
もし労働者が、通勤の途中でルートを外れたり、移動を中断したりした場合は、その逸脱や中断の間、その後の移動は「通勤」とは見なされなくなります。
したがって、その間やその後に事故が起きても、労災と認定されず、労災保険の給付対象にもなりません。
ただし、厚生労働省が「日常生活上必要な行為」と認める用事のために、やむを得ずルートを外れる場合には例外があります。
具体的には、以下のようなケースです。
・日用品の購入
・選挙に行くこと
・病院への通院など
このような場合、逸脱・中断している間は通勤と見なされませんが、元のルートに戻った後は再び「通勤」として扱われます。
【関連記事】【労災(労働災害)】業務災害と通勤災害の違いとは?
休業補償給付の計算方法
労災保険の給付には、複数の種類があります。そのうち、労災による休業に際して支給されるのが、休業補償給付です。
休業補償給付の支給要件は、以下の3つを全て満たすことです。
- 労災による傷病の療養中であること
- 労働できない状態であること
- 賃金を受けていないこと
また、支給される休業補償給付の金額は、以下の計算式で算出することができます。
- 休業補償給付=給付基礎日額×60%×休業日数
- 休業特別支給金=給付基礎日額×20%×休業日数
※給付基礎日額=労災直前の3カ月間の賃金総額(ボーナスは除く)÷暦数
休業補償給付では、休業特別支給金も併せて支給されるので、「給付基礎日額×80%×休業日数」で計算すると良いでしょう。
ただし、休業日数については、休業初日からカウントするのではなく、待機期間を除く必要がある点に注意が必要です。この点については、次の章で詳しくご紹介します。
【関連記事】労災の休業補償とは?
休業補償給付の待機期間のカウント方法
労災保険の休業補償給付には、待機期間(給付が始まるまでの無給期間)が設けられています。この待機期間は、労働者が実際に働けず休んだ日が連続して3日間ある場合にのみ成立します。
したがって、3日連続で休業した場合に限り、4日目から休業補償給付が支給されます。
待機期間のカウントは、所定労働時間に働けなかった日から開始されます。
たとえば、残業中にケガをして翌日から休業した場合は、ケガをした当日はカウントせず、翌日の休業日を待機1日目とします。
また、所定労働時間中にケガをして早退した場合は、その早退した日を待機1日目としてカウントします。
このように、休業1日目とするタイミングは、ケガをした時間帯によって異なるため注意が必要です。
ちなみに、待機期間中は労災保険の給付はありませんが、事業主には平均賃金の60%以上を補償する義務があります(労働基準法第76条)。
そのため、待機期間であっても労働者がまったく補償を受けられないわけではありません。
休業補償給付と傷病手当の違い
傷病を負って休業した場合の補償には、労災保険の休業補償給付のほかに、健康保険の傷病手当金(私傷病による休業補償)や雇用保険の傷病手当(離職者向けの制度)があります。
これらは休業中の生活を支える制度という点では共通していますが、適用されるケースが異なります。
- 労災保険の休業補償給付:業務上の原因による傷病(労働災害)によって休業した場合に利用できる
- 健康保険の傷病手当金:業務とは無関係の病気やケガにより働けなくなった場合に支給される
- 雇用保険の傷病手当:離職後にハローワークで求職の申し込みをした人が、傷病のために15日以上働けないときに申請できる
労災保険は業務上の傷病を、健康保険は私的な傷病を、雇用保険は離職後の傷病を補償対象としています。
これらの制度は、それぞれの条件に当てはまる場合にのみ利用でき、重複して給付金や手当を受け取ることはできません。
そのため、申請する際は自分の状況に合った制度を選ぶことが重要です。
【関連記事】労災の休業補償と健康保険の傷病手当金は、両方もらえるのか?
労災保険給付と損害賠償請求
労災保険給付には、治療費や休業補償、後遺障害、死亡、介護などの状況に応じた給付が用意されています。
しかし、労災保険の給付では、労働者が被ったすべての損害を完全に補償できるわけではありません。
たとえば、労災による精神的苦痛(慰謝料)については、労災保険の対象外です。
慰謝料を含めた損害全体に対する補償を求めるには、会社や第三者に対して損害賠償請求を行うことが検討されます。
たとえば、会社が安全対策を怠っていた場合や、第三者の不注意によって事故が起きた場合には、損害賠償を請求できる可能性があります。
労災保険と損害賠償は、同一の損害について重複して受け取ることはできません。
ただし、損害賠償には慰謝料が含まれるため、状況に応じて両制度を組み合わせることで、より充実した補償が可能となります。
【関連記事】労災における損害賠償請求とは?どのような種類の損害賠償が請求できるか
業務災害の場合の損害賠償請求
業務災害が発生した際に損害賠償請求を行うには、次のような法的な根拠が必要となります。
【安全配慮義務違反(労働契約法第5条)】
会社には、従業員の生命・身体の安全を確保する義務があります。
この「安全配慮義務」を怠った結果として労災が発生した場合、会社は損害賠償責任を負う可能性があります。
【使用者責任(民法第715条)】
従業員が業務中に他人に損害を与えた場合、その従業員を雇っている会社も賠償責任を負うことがあります。
※これは労働者が加害者となった場合の責任です。
【工作物責任(民法第717条)】
会社が所有または管理する建物・設備などに欠陥(瑕疵)があり、それが原因で労災が発生した場合、会社は損害賠償責任を問われることがあります。
このように、業務災害に関して会社の法的責任が認められる場合には、労働者は会社に対して損害賠償請求を行うことができます。
反対に、こうした法的根拠が認められない場合には、損害賠償請求を行うことは原則として難しくなります。
会社への損害賠償請求の手続き
労災が発生し、会社に損害賠償を請求する場合は、以下のような流れで手続きが進みます。
- 労災保険の給付金申請
- 会社への内容証明郵便の送付(損害賠償請求書の提出)
- 会社との交渉
- 労働審判または訴訟
労災保険からの補償と損害賠償による補償は、同じ損害に対して二重に受け取ることはできません(損益相殺の原則)。
そのため、損害賠償請求額を正確に算出するには、まず労災保険の給付金額を確認する必要があります。
給付金の内容が確定した後に、会社に対して内容証明を送付し、損害賠償の交渉を行います。
交渉で合意に至らなかった場合は、労働審判や民事訴訟による解決を目指します。
これらの手続きには、法律や労災制度に関する専門知識が求められます。
損害賠償請求を検討している場合は、できるだけ早い段階で弁護士に相談し、サポートを受けることをおすすめします。
弁護士に依頼することで、労働者の心理的・手続的負担が軽くなり、より有利に手続きを進められる可能性が高まります。
まとめ
労災保険の休業補償給付は、ケガや病気を負った労働者の生活を支える重要な補償です。労災に遭って休業する際には、必ず申請手続きを行うようにしましょう。
また、労災保険で賄えない補償については、損害賠償請求を検討することも大切です。慰謝料を受けることでより手厚い補償を受けられれば、働けない不安が和らぎ、生活を安定させることも可能になります。
労災に関するトラブルにお悩みの方は、労災無料相談センターへご相談ください。労災問題を扱った実績の豊富な弁護士が、トラブルを解決しより良い補償を受けられるよう、手厚くサポートを行います。
損害賠償請求の手続きもお引き受けします。まずはお気軽にお問い合わせください。
