労災認定されない例|認定基準と認められない場合の対処法を徹底解説

業務に関係する事故で怪我や病気を負った場合、労働者は労災申請を行うことができます。この申請を受け、労災が認定されれば、その労働者は労災保険給付を受けることが可能です。

とはいえ、どんな場合でも労災が認定されるわけではありません。
では、どのような場合に労災は不認定となるのでしょうか。

今回は労災が認定されない具体例とその場合の対処法について解説していきます。

労働災害(労災)とは?

「労働災害(労災)」とは、業務に起因した労働者の怪我や病気、死亡のことを指します。労災は、労災保険の補償対象であり、災害に遭った労働者は然るべき手続きを取ることで、労災保険の給付金を受け取ることができます。

労働災害の種類

労災は、大きく次の2種類に分類されます。

  • 業務災害:業務上の怪我や病気、死亡
  • 通勤災害:通勤中の事故で負った怪我や病気、死亡

業務中に労働者が被った災害は、業務災害に分類されます。具体的な事例としては「工場での作業中に機械で怪我をしてしまった」「業務中にオフィスで転倒し骨折した」などが挙げられます。

一方の通勤災害は、労働者が通勤途中に被る災害のこと。「出社途中で車に跳ねられ怪我をした」「会社から家に帰る際に駅の階段から落下して腰を痛めた」などの事例が考えられます。

労災給付の種類

前述のとおり、労災(労働災害)は労災保険の補償対象です。
労災保険は、正式名称を労働者災害補償保険といい、労災に遭った労働者やその遺族に対し、適切な保険給付を行います。

労災保険の給付金には、次の7つの種類があります。

療養(補償)給付:労災の怪我や病気の療養にかかる費用(医療費や薬代など)を補償する給付金
休業(補償)給付:労災の怪我や病気によって休業する際に支給される給付金
傷病(補償)給付:療養開始から1年6ヶ月経っても傷病が治ゆせず、その状態が規定の傷病等級に当てはまる場合に支給される給付金
障害(補償)給付:労災による傷病が治ゆした時に、身体に規定の障害等級に当てはまる障害が残った場合に支給される給付金
介護(補償)給付:傷病(補償)年金または障害(補償)年金の受給者のうち、規定の障害・傷病等級に該当し、現在介護を受けている方に支給される給付金
遺族(補償)給付:労災によって亡くなった労働者の遺族に対して支給される給付金
葬祭料(葬祭給付):労災によって亡くなった労働者の葬祭を行った方に支給される給付金

これらの給付金には、それぞれ受給要件が定められています。給付金を申請する(労災申請)際には、労働者や遺族は、各要件を満たした上で、それぞれの給付金用の請求書を作成し、それを労働基準監督署に提出することになります。

労災認定の基準

労災(業務災害)は、次の条件が認められる場合のみ認定されます。

  • 業務遂行性があること(その労働者と労働契約のある事業主の支配下にある状況での災害であること)
  • 業務起因性があること(業務と災害に因果関係があること)

業務遂行性と業務起因性の両方が認められる場合、その怪我や病気、死亡は労災と認められ、被災労働者は労災保険の給付を受けられます。
どちらかひとつでも認められない場合、それは労災とは認められません。

ただし、前述のとおり、労災保険の給付金にはそれぞれに支給要件が定められています。よって、被災労働者が給付金を受けるには、業務遂行性・業務起因性とは別に、この要件も満たす必要があります。

また、通勤災害については「通勤」の定義を満たすことが労災認定の条件となります。
通勤中の怪我が労災認定される条件については「通勤中のケガは労災がおりない!?労災にならないケースを解説」で詳しく解説していますので、ご一読ください。

労災認定されない例

ここからは、労災が認定されないと考えられる具体例を6つご紹介します。
このような場合には、労災保険ではなく健康保険の利用を検討してください。

【例①】故意で発生させた災害

労働者または第三者が故意に発生させた災害の場合、労災は認定されません。
例えば、「労災給付を得るためにわざと業務中に転倒して骨折を負った」など。このような場合、業務遂行性は認められても、業務起因性は認められません
よって、労災は不認定となります。

この場合、第三者の故意で災害に遭ったのであれば、被害者は相手への損害賠償請求を検討すべきでしょう。

【例②】個人的な恨みによる災害

個人的な恨みによる災害も、それが例え業務中の出来事であっても、労災認定の対象とはなりません。先ほどの例と同じく、その災害の発生に業務起因性が認められないためです。

具体例としては、「以前から私的な問題で揉めていた同僚から暴行を受け、怪我を負った」場合などが考えられます。この災害の発生は個人間のトラブルに起因するものであり、業務には起因しません。

【例③】自然災害による被害

地震や台風、洪水などといった自然災害による労働者の怪我や死亡も、労災とは認定されません。災害の原因は自然災害であり、業務ではない(業務起因性が認められない)ためです。

例えば、「屋外での業務中に、大雨による洪水で労働者が流され、怪我を負った」ような場合、業務遂行性は認められるものの、業務起因性は認められない可能性が高いと考えられます。

ただし、作業条件によっては業務起因性が認められ、労災認定がおりるケースもあるようです。

【例④】業務以外の作業で起きた災害

「業務中に作業場内で遊んでいて転倒し骨折した」「業務中に私用で機械を使っていて怪我をした」など、業務以外の作業で起きた災害には、業務起因性がありません。そのため、たとえ業務中に起きた災害であっても、それが労災と認められることはありません。

【例⑤】休憩時間の私的行為による災害

「仕事の休憩中に会社の敷地内でキャッチボールをしていて、指を捻挫した」など、休憩時間の私的行為によって起こった災害は、基本的に労災認定がおりません。なぜなら、休憩中の私的行為には業務起因性が認められないためです。

「仕事の休憩中に社外のコンビニに買い物に行って、自転車と衝突した」などといった場合であれば、業務起因性だけでなく業務遂行性も認められず、当然労災は認定されません

【例⑥】通勤中の私用の寄り道で起きた災害

「退社後に映画館で映画を観た帰りに、駅のホームで滑って打撲を負った」など、通勤中の寄り道で起きた災害も、基本的には労災とは認められません。私的な寄り道(※厚生労働省の認める日常生活で必要な行為を除く)をしている時点で、通勤災害の認定条件である「通勤」の定義から外れるためです。

精神障害は労災認定されにくい

労災の対象となるのは、怪我や体の障害・疾患だけではありません。精神障害も労災認定の対象となります。
その認定要件は次のとおりです。

【精神障害の労災認定要件】
1.認定基準の対象となる精神障害を発病していること
2.認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
3.業務以外の心理的負担や個体側要因により発病したとは認められないこと

ただし、一般的な傷病と異なり、「業務によって精神障害を負った」ことを明確に証明・判断することは簡単ではありません
現に、精神障害の労災認定率は2〜3割程度。残りの7〜8割は、申請したにも関わらず労災が認められていません。
精神障害の労災認定はハードルが高いというのが現状だと言えるでしょう。

労災認定されなかった場合の対処法

労災申請を行ったにも関わらず、労災が認定されなかった場合には、次の対処法を検討しましょう。

審査請求を行う

一度労災が不認定になっても、被災労働者は審査請求や再審査請求、取消訴訟を行うことができます。

【審査請求】
労災申請後の労働基準監督署長の決定に不服がある場合に、労働者災害補償保険審査官に対して請求する
期日は決定を知った日の翌日から起算して3ヶ月以内【再審査請求】
労働者災害補償保険審査官の決定に不服がある場合に、労働保険審査会に対して請求する
期日は決定書の謄本が送付された翌日から起算して2ヶ月以内【取消訴訟】
労働保険審査会の決定に不服がある場合に、地方裁判所に対して請求する
期日は決定があったことを知った日から6ヶ月以内

これらの手続きでは、労災の不認定の判断を覆せる可能性があります。労災が認められなかったことに不服がある場合には、これらの対応を検討しましょう。

損害賠償請求を行う

労災の認定・不認定に関わらず、被災労働者は会社や災害の原因を作った第三者に対し、損害賠償を請求できる可能性があります。
ただし、損害賠償請求が可能なのは、会社や第三者に法的責任が認められる場合に限ります。

損害賠償では、療養補償や休業補償だけでなく、労災保険では補償されない慰謝料も請求することが可能です。労災認定がおりなかった場合でも、損害賠償請求ができれば、災害に遭った労働者は十分な補償を受けることができるでしょう。

労災が認められない場合は弁護士に相談

ご紹介したとおり、労災が認められなかった場合には、再審請求や損害賠償請求を検討すべきです。しかし、これらの手続きには専門的な要素が多く、労働者自らが手続きを行うにはハードルが高いとも考えられます。

この課題を解決するためには、法律の専門家である弁護士への相談が有効です。弁護士の手を借りれば、手続きはスムーズに進められ、労働者自身の負担も軽減できるでしょう。
また、認定が難しい労災の精神障害については、弁護士は証拠集めをサポートすることも可能です。

労災が不認定でも、諦める必要はありません。判定を覆し、しっかり補償を受けるためにも、弁護士への相談をご検討ください。